きのう「電波オークション」をテーマにして慶応でシンポジウムが開かれた。私が10年以上言い続けてきたことが、ようやく世間でも認知されるようになったのは喜ばしいが、私のプレゼンテーションと質疑で尽くせなかった点を少し補足しておく(*テクニカル)。

関口和一さんの「通信産業への課税になる」という批判は、Eli Noamなども言っているが、逆に無償で電波を割り当てることは通信産業への補助金になる。日本で一番もうかっている携帯電話業界に、政府が数兆円も「贈与」するのはむしろ不公正だろう。岸さんもいっていたように、これを総務省の特別会計のようなものにするのは無駄づかいの温床になるので、他の国と同様、一般会計に充当すべきだ。

同じく関口さんもいっていたように、テレビの周波数効率はまだいいほうで、船舶無線や地域防災無線など「自営無線」の無駄づかいが一番ひどい。こういう帯域の免許を更新するとき、オークションで汎用IP無線に変えていけば、いくらでも周波数は出てくる。ただし、いま地上波局の使っている帯域を取り上げてオークションにかけることは絶対ない(世界にも前例はない)。それを恐れるテレビ局が政治部の記者を使って妨害するのが、日本だけオークションができない最大の原因なので、この点は繰り返し強調しておきたい。

参加者全員から批判が集中したのは、710~730MHzを占拠するITSだ。もともとITSには5.8GHzのDSRCがあるのに、日本だけこんないい帯域を正体不明の技術に使うのはおかしい。「5.8GHzでは車車間通信ができない」というのが理由らしいが、車から道路脇のITS基地局に飛ばせばいいし、携帯電話の基地局を使ってもいい。会場からもITSの委員から「IPで共通化したほうがいい」という意見が出た。

770~806MHzについても、シンポジウム後のパーティで民放関係者から「ほとんど使ってないことは事実。他の用途にオーバーレイで使うのは問題ない」という話があった。ここは今、ラジオマイクとも競合しており、これを含めて共用化することは技術的には容易なので、総務省がイニシアティブを発揮すれば、710~806MHzの96MHzで20MHz×5スロットのオークションができる。

オークションより重要なのはホワイトスペースである。IEEEでは標準化が進んでいるのに、日本企業はワーキンググループにも参加せず、総務省は「エリアポータル」とかいうガラパゴス技術でやろうとしている。ホワイトスペースの国際標準をアメリカ勢に取られたら、今度こそ日本の無線通信産業は壊滅するだろう。

オークションに対するもう一つの抵抗勢力はNTTだ。三浦社長は記者会見で「オークション制度を導入するとなれば、事業者がコストを負担することになるだろうが、いずれユーザコストにはね返る」と反対を表明し、これに呼応して総務省の内藤副大臣(NTT労組出身)もオークションに消極的だ。

しかしこれは誤解である。2.5GHz帯でもわかったように、美人投票でやる場合には「新規参入を優先する」という条件がついてドコモが落とされる可能性がある。オークションでやれば、ドコモは金の力では絶対に勝つので、こっちのほうがNTTにとっては有利なのだ。また有線と無線のプラットフォーム競争が実現すれば、NTT法を廃止してNTTを全面的に自由な民間企業にすることも可能になる。

「金のあるインカンバントが勝つ」という懸念については、アメリカのように「ベンチャー枠」を設けることも可能だが、海部美知さんも書いているように大混乱になるおそれが強い。むしろベンチャーについてはホワイトスペースを(FCCのように)免許不要で開放して自由に使わせることが望ましい。こっちで100Mbps級の公衆無線通信が可能になれば、オークション価格も下がるので、(財源のほしい民主党政権には気の毒だが)通信業者の負担も軽くなる。

これ以外の基本的な問題については周波数オークションFAQを参照してください。やや専門的な解説としては、私の論文を。