OECDの対日審査報告書が発表された。今年は特に財政赤字についてくわしい分析をしているので、その部分を抜粋しておこう。
2010年には,政府の粗債務残高がGDP比200%,純債務残高では100%へと上昇すると見込まれ,財政の持続可能性に深刻な懸念を惹起している.日本の長期金利は,公的債務の上昇にも関わらず,驚くほど低位安定してきたが,これは豊富な国内貯蓄,投資の強いホーム・バイアス,そして,魅力的な国内投資機会が限られているという中で金融機関が継続的に国債を購入していることを反映している.今後,こうした低金利を支える条件が弱まっていくと見込まれる.

歳出削減は,財政再建目標を達成するために重要な役割を果たすべきである.2002年から2007年の景気拡大期において,一般政府支出はGDP比で39%から36%に低下したが,2010年には42%に達するものと見込まれる.公共投資は1996年のGDP比8.4%から2008年の4.0%へと減少したが,この流れは財政刺激策によってある程度反転した.この増加分を巻き戻すことは,GDP比約1%程度の歳出削減を意味する.

歳出削減の余地が限られていることから,抜本的税制改革による追加的な歳入増が必要である.こうした改革は歳入を増やすと同時に,増税が成長に及ぼす悪影響を抑制し,所得分配の不平等や相対的貧困に対する懸念を払拭し,地方税制を改善することに資する.改革の鍵となるのは以下のような点である:
  • 経済成長への悪影響を抑えることから,消費税率の引上げが主たる増収源であるべき.
  • 法人税を支払っていない企業の比率を引下げるような課税ベースの拡大は,経済成長を加速させる税率の引下げ余地を生み出すだろう.
  • 5割以下の賃金所得しか課税されず,自営業者の所得捕捉率が低いことにかんがみると,個人所得税の課税ベース拡大は歳入を増やすだろう.所得税の改革は,所得分配や相対的貧困問題に対応するために勤労所得税額控除制度の導入を含むべきである.
  • 23の税目という非常に複雑な地方税制の改善と地方自治体に対する更なる財政上の自律性の付与は有益であろう.
私のコメント:課税ベースの拡大のためには、先進国で最低レベルの税務署員を増やし、「クロヨン」のような捕捉率の不公正をなくすべきだ。そのためには、納税者番号を導入し、徴税業務の一部を民間委託するなど、税務を効率化する必要がある。またOECD諸国で最高の40%に達する法人税率を引き下げる一方で租税特別措置を撤廃するなど、複雑で不公平になった税制を抜本的に改めることが重要だ。

企業に依存する「日本型福祉システム」は、大企業の正社員を過剰に保護する一方、もっとも所得再分配を必要とする非正社員などの貧困層に届いていない。OECDも提言している負の所得税(勤労所得税額控除)を実施し、他方で企業年金の確定拠出への移行や退職金への課税などによって付加給付を減らし、社会保険の負担を削減する必要がある。長期停滞に向かう日本経済で「大きな政府」をめざす民主党の路線は、将来世代の負担と老後の不安を増して、消費を減退させる悪循環を起こすおそれが強い。