きのうの「アゴラ」は「『記者クラブ開放』の約束は嘘なのか」という記事にアクセスが集まり、1万5000ユーザーと過去最高を記録した。これ以外にも、ネット上の首相会見についての記事のほとんどは、鳩山氏が「首相会見を記者クラブ以外のメディアに開放する」と約束したにもかかわらず、ネットメディアを閉め出したことへの批判だった。

ところが驚いたことに、けさの新聞各紙にはまったくこの問題への言及がない。その代わり彼らが集中攻撃しているのが、「官僚の記者会見禁止」だ。確かにこれはおかしい。ブリーフィングまで禁止したら、細かい実務的な話まで大臣や政務官が答えなければならなくなって、業務は回らないだろう。事務次官会見の廃止はいいとして、他の官僚の取材については政治家が管理すればよい。

まだスタートしたばかりだからしょうがないが、民主党の情報管理はちぐはぐだ。「官僚の情報支配を排除する」といいながら、首相会見の閉め出し騒動の原因は、どうやらメディア管理を内閣広報室に丸投げしたためらしい(*)。しかも広報室が内閣記者会(官邸クラブ)と「協議」して雑誌記者は5人だけ認めたというから、官僚支配どころか記者クラブ支配である。

企業でも、電話1本で社長が取材に応じるのは中小企業だけで、上場企業ではどんな細かい取材でも広報を通すのが常識である。ところが官庁だけは、記者クラブに加盟しているメディアであれば、広報を通さなくても直接、課長がインタビューに応じる。これは取材するほうは簡単でいいのだが、それを放送してから問題が起こると、広報からクラブに文句が来たりする。要するに、クラブが企業の広報部のような情報管理機関の役割を果たしているのだ(昔は取材の申し込みもクラブを通さないと受けなかったが、これは「NC9」のプロデューサーがつぶした)。

こういう情報管理体制は、メディアが数社しかなかった時代の遺物である。今のようにメディアが多様化した時代に、特定の新聞社・放送局だけを広報機関として使うシステムは実態に合わない。官僚の会見を禁止するのではなく、官庁の記者クラブを解散し、すべての情報を管理する報道官(政務官の兼務でよい)を官邸以下すべての官庁に置き、省庁の情報発信を政治家が一元管理すべきだ。

政権が交代しても官僚機構は交代しないが、政治家の支配下に置くことはできる。政権が変わってもコントロールできないのは、「第四権力」メディアである。特に没落しつつある大手メディアは、今後あらゆる手段で情報独占を守り、他のメディアを排除しようとするだろう。今回の記者クラブ騒動をめぐる報道カルテルのように、記者クラブ以外には報道機関は存在しないというのが彼らの立場だ。

民主党が闘うべき相手は官僚ではない。行政機関は立法府の目的を実現する手段であり、統治システムを変えれば命令に従う。民主党政権がまずやるべきなのは、記者クラブという奇習に象徴される日本の第四権力を交代させ、表現の自由と多様性をウェブを含むすべてのメディアに開放して、真の民意を政治に反映することである。

(*)コメントで教えてもらったが、神保哲生氏によれば、官邸の広報に「雑誌と海外プレスだけでいい」と伝えたのは平野官房長官だという。だとすれば、首相の約束を官房長官が破ったことになる。民主党は今回の経緯をきちんと説明すべきだ。