ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 下 (文春文庫)
著者デイヴィッド・ハルバースタムは、本書の校正を終えた5日後に自動車事故で亡くなった。ベトナム戦争の報道でデビューした彼のキャリアが、朝鮮戦争で閉じられたのは不思議な因縁だ。著者もいうように、ベトナムからイラクに至るアメリカの軍事的失敗の原点がここにあるからだ。

本書の主人公は、マッカーサーである。士官学校を平均98点という史上最高の成績で卒業した彼は、第2次大戦の英雄となり、日本の占領統治を成功させた。そこで終わっていれば彼の軍人としてのキャリアは完璧だったが、そこに北朝鮮の攻撃という余計な仕事が降りかかってきた。敵の戦力を軽視していたマッカーサーの指揮する国連軍=米軍は緒戦では敗退を重ねるが、有名な仁川上陸によって形勢は逆転した。

しかしマッカーサーは北朝鮮軍を中国との国境まで深追いしたため、中国が参戦して戦争は泥沼状態となった。彼は原爆の使用を主張したが、トルーマン大統領以下、軍の中にもマッカーサーを支持する者はなく、彼は「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という有名な言葉を残して去る。そして毛沢東と金日成はこの戦争を「勝利」と総括し、アジアにおける冷戦の構図が固まった。

朝鮮戦争は、アメリカが北朝鮮を警戒して軍を韓国に配備していれば起こらなかった。この失敗で北朝鮮を増長させ、蒋介石が中国から追放されるのを放置したという批判を浴びた米政府は、その後、共産主義が広がるのを予防する戦略に転換し、ベトナム戦争などの失敗を繰り返した。マッカーサーの失敗をまねいたアジア人を蔑視する独善性や、戦況が悪いという情報が上層部に伝わらないバイアスなどは、そのままイラクまで引き継がれた。

本書はこの奇妙な戦争を、前線で戦った当事者へのインタビューによって詳細に再現している。上下巻で1000ページを超える分量にはいささか辟易するが、朝鮮戦争のドキュメントとしては、おそらく最高の作品だろう。