先日、ある記者に「自民党が急に『成長戦略』をいいはじめたのは池田さんの影響じゃないんですか?」ときかれた。たしかに7月28日の記事で「民主党は分配の話ばかりで、その原資をどうやって大きくするのかという話がない」と指摘し、「自民党が成長戦略を打ち出せば、勝ち目もあるかもしれない」と書いたら、その3日後に自民党が「成長戦略」をマニフェストのトップに掲げ、麻生首相が同じようなことをいいだしたのには驚いた。

まぁ偶然だろうが、当ブログには衆議院からのアクセスも多い。議員秘書のみなさんは真剣に勉強しているので、少し教科書的なおさらいをしておくと、成長率を高める政策として、次の3つが考えられる:
  1. 財政政策:政府支出の追加によってGDPを増やす
  2. ターゲティング政策:特定の産業を政府が助成する
  3. 規制改革:競争を促進して市場を拡大する
このうち1は短期の景気対策で、確実にGDPは上がるが効果は一時的なので、成長戦略とはいわない。民主党が後出しじゃんけんで「成長戦略」に含めた子供手当や高速無料化などはすべて1だが、これはゼロサムの所得移転で、長期の成長率を引き上げる効果はない。この点で、民主党のマニフェストは混乱している。

同じ財政支出でも、2のような産業政策は企業収益を高めて潜在成長率(民間が自律的に維持できる成長率)を高める可能性がある。オバマ政権の「グリーン・ニューディール」や、経産省の進めている「新経済成長戦略」はこれだ。自民党の掲げる「低炭素革命」などのキャッチフレーズも、ここから借りてきたものだろう。この点で成長戦略の理解については、経産省の知恵を借りた自民党に軍配が上がる。

ただターゲティング政策が有効な分野は限られる。日本のように成熟した経済では、民間にできず政府にだけできる投資というのは、ほとんど残っていない。考えられるのは、石油の採掘や交通インフラ整備のような超長期の投資か、環境のような政策目的のある分野だろう。この意味で、オバマ政権をまねた低炭素という自民党のスローガンは、的はずれではない(私は無意味だと思うが)。

しかしもっとも重要で金もかからないのは、3である。特に労働生産性の低いサービス業の規制を撤廃し、新規参入を促進することが重要だ。その問題業種の一つが教育サービスなので、きょう麻生氏が大学の多い八王子で第一声を上げたのが、「成長戦略を意識した」という周辺の解説が本当だとすれば立派なものだ。また民主党の検討している周波数オークションは、財源を生み出す成長戦略である。総務省も「政権党がやると決めれば反対はしない」とのことで、省内で勉強会を始めたそうだ。

成長戦略で何よりも重要なのは、人材である。硬直化した労働市場で優秀な人材が不況業種にロックインされていることが日本の成長率を下げている最大の要因なので、労働問題も派遣労働の禁止といった後ろ向きの話ではなく、人材を成長分野に移転する成長戦略として考えてはどうだろうか。人材活用のための再教育機関として大学を位置づければ、教育改革ともリンクする。成長戦略に必要なのは財源ではなく、知恵と決断力である。