"The Looming Tower"の邦訳が出た。原著はアルカイダを単なる狂気のテロリストとして否定するのではなく、イスラム原理主義がいかにして生まれたかをたどり、彼らの思想を内在的に理解しようとする、すぐれたルポルタージュである(ピュリッツァー賞受賞)。

利己的な欲望を肯定する資本主義は、人々の自然な倫理観にあわないという欠陥を抱えており、これを「超克」しようとする運動は、マルクスから北一輝に至るまで無数に繰り返されてきた。イスラム原理主義も、こうした「裏返しのモダニズム」の一種である。

しかしこの種の思想がもたらしたのは、資本主義よりはるかに悲惨な世界だった。「新自由主義」を敵視する自民党・民主党の温情主義も、こうした反モダニズムを薄めたもので、市場メカニズムを理解しないでそれを否定する点でも、アルカイダと大した違いはない。