今週のEconomist誌は、日本の過大な経常黒字=過少消費が世界経済と日本自身にとって有害だと論じ、規制撤廃によってサービス業の労働生産性を上げて内需を拡大すべきだと提言している。
日本の経常収支の黒字は、2007年にGDPの4.8%と過去最高を記録した。これは日本の輸出が世界の脅威となった80年代を上回る。当時、前川リポートは「内需拡大」を呼びかけたが、その後も輸出産業に依存する体質は変わらなかった。90年代以降は、国内産業の業績悪化によって輸出への依存度はむしろ高まり、危機前には工業生産の1/3が輸出産業によるものだった。

国内消費が増えない要因は、労働分配率の低下や高齢化、大企業と中小企業の二重構造、非正規労働者の増加による平均賃金の低下などだが、好不況にかかわらず消費が伸びないのには文化的要因も考えられる。日本人は勤勉を重んじて長時間労働に耐え、余暇を楽しむすべをあまり知らず、借金で分不相応な生活をすることを好まない。

国民に代わって政府が消費する景気対策は、悪化している財政を考えると好ましくない。今は国債が順調に消化されているが、日本政府の返済能力に不安が出てくると危険だ、とIMFは警告している。根本的な対策は、サービス業の効率を上げて消費を拡大することだ。日本のサービス業の労働生産性が低い原因は、規制に守られて競争が阻害されていることだ、とOECDは指摘している。

日本企業のR&D投資は高いが、サービス業のR&D比率はアメリカの1/4しかない。通信サービスや旅行代理店など成長の見込める分野も、規制が複雑すぎて外資が入れない。外資が参入した部門の生産性上昇率は平均の1.8倍なので、対内直接投資を拡大することが有効な対策だ。

今後10年で人口が9%も減少する経済においてもっとも緊急性の高い問題は、「子作り」を奨励することではなく労働生産性を上げることだ。そのためにはリストラによって労働移動を促進するしかない。それは古い企業で雇用喪失をまねくだろうが、サービス業の効率を上げて消費が増えれば、最終的には雇用は増える。重要なのは、「安心・安全」などの理由で過剰に規制されているサービス業を政府の介入から解放し、新規参入を促進することだ。

しかし今度の総選挙では、この日本経済のバランスを回復するというもっとも重要な問題が、争点にさえなっていない。逆に製造業の派遣労働を禁止するなど、規制を強化する政策が提案されている。こういう愚かな政策は不況を悪化させて消費者の不安を増し、消費を減らして問題をさらに悪化させるだろう。
これがOECDやIMFやEconomistに代表される世界の常識である。それが誤った「市場原理主義」だというなら、自民党や民主党はそれよりも合理的な成長戦略を提案すべきだ。こうした常識をふまえることなく、不況の責任を「小泉・竹中改革」に押しつけるだけでは、長期停滞はますます深刻化するだろう。