霞ヶ関の「大異動」が話題になっている。今年の人事で事務次官が交代しなかったのは、外務・経産・農水の3省だけで、「民主シフト」が鮮明だ。鳩山代表が「局長級にはすべて辞表を出させる」とか「霞ヶ関に100人以上の政治家・民間人を送り込む」といっているのに対抗して、国交省と農水省では民主党ともめた場合の次官の「バックアップ」を用意する異例の人事が行なわれた。

局長級は、だいたい私の大学の同期がなる時期なので、個人的にも知っている人がいるが、民主党に対する「抵抗力」を重視した配置が行なわれたようだ。特に経産省では「市場派」が一掃されて「産業政策派」が主要ポストを独占し、「官僚たちの夏」が全面的に復活した。総務省も「親NTT派」の事務次官が就任して、「再々編」は骨抜きになりそうだ。

これに対して民主党の戦闘態勢はどうかといえば、はなはだ心許ない。先週のICPFの特別セミナーでも、民主党の「IT専門家」である内藤正光氏は、「ホワイトスペース」について何も知らず、周波数オークションには反対した。彼が力を入れていた「日本版FCC」などという組織いじりは、手段であって目的ではない。問題は人事や組織ではなく、意思決定を実質的に官僚から国民の手に取り戻すことだ。

そのメルクマールが、周波数オークションである。今のように官僚が「国定技術」を決めて免許人に無償で割り当てる電波社会主義が、日本の携帯電話業界が世界に立ち後れる原因になったのだが、セミナーに出てきた自民党の世耕弘成氏(NTT出身)も社会主義を変える気はないらしい。NTT労組出身の内藤氏が社会主義を擁護するのは、むしろ当然だろう。

その代わり、出てくるのは「電子政府」とか「教育・医療のIT化」などのバラマキ政策ばかり。世耕氏の紹介したのは現在の総務省の政策だからしょうがないが、内藤氏の「次の総務省」の政策も、ほとんど見分けがつかない。このように規制改革よりバラマキというバイアスは霞ヶ関の本能みたいなもので、これを逆転しないかぎり、本質的な改革はできない。

TBSのドラマ「官僚たちの夏」は視聴率も好調で、「最近珍しい社会派ドラマ」として好評だ。中身が原作とまったく違うフィクションであることは、番組のウェブサイトにも断ってあり、「昭和30年代ブーム」に乗って、日本のよかった時代を懐かしむオヤジ向けドラマらしい。昔話としては、よくできている。あのころの日本には「アメリカのように豊かになる」というわかりやすい目標があり、役所が民間をまとめることができた。

しかし今は違うのだ。官僚でさえ若手はそれに気づいているが、省内では口に出せないという。「役所は手を引くべきだ」などといったら、出世できないからだ。それをコントロールすべき民主党も、若手にはわかっている人がいるが、マニフェストに出てくるのは「官僚たちの夏」が永遠に続くかと思うようなバラマキ政策ばかり。民主党にはなるべく小さく勝ってもらって、「第三極」の結集に期待したい。