
逆にいうと、経営者を入れ替えて戦略を立て直せば、ガラパゴスと馬鹿にされている技術を世界に売り込むこともできるはずだ。本書は、そのためのフレームワークを提唱し、いくつかのケースを「進化論」的な枠組で分析している。日本の製造業が要素技術ではすぐれていながら収益が上がらない原因は、モジュール化によって「すり合わせ」の優位性が生かせなくなったからだ、というのはおなじみの議論だが、この程度の認識もなしに「ものづくり」にこだわる経営者が多い。
問題は、どうすればこの隘路を突破できるのかということだが、そこに意味的価値という概念が出てくるのがおもしろい。iPhoneは、物理的な要素技術では日本の携帯に劣るが、そのおしゃれなデザインやソフトウェアとの連携、AppStoreによってユーザーがアプリを開発できるしくみなどのコンセプトがすぐれているのだ。こうした「意味」は要素技術に分解できず、コンセンサスで作り出すこともできない。スティーブ・ジョブズという個性によってしか生み出すことはできないのだ。
イノベーションを「産学連携」や「埋もれた知的財産の発掘」によって生み出そうという霞ヶ関のアプローチは、日の丸検索エンジンやスパコンの戦艦大和のような「奇形的進化」を生み出すだけだ。最近の認知科学が発見したように、最初にフレーム(意味)があって行動が決まるのであって、その逆ではない。そして多くのフレームの相互作用の中から意味が生成する言語ゲームは進化的なので、何が生まれるかは予測できない。必要なのは「国営マンガ喫茶」ではなく、新しい企業や新しい経営者によって、なるべく多くの突然変異を生み出す制度設計だろう。
携帯電話の販売奨励金の廃止によって、昨年の端末の売り上げは前年比-19%だったそうです。これが「谷脇不況」ですが、その代わりベンダーが海外進出を再検討しはじめました。決められない経営者は崖っぷちに追い詰めないとダメだと思います。