同じ著者の『西洋音楽史』は、日本の音楽雑誌にありがちな「泰西名曲」の巨匠による名演奏を絶賛する批評とは無縁の、同時代の文脈から西洋音楽を客観的に評価する名著だった。しかし音楽について言葉で語るのは、どうしても限界がある。本書は、具体的なCDやDVDに即して西洋音楽の変貌を跡づけるものだ。

しかし『レコード芸術』の読者には、とても受け入れられない選曲だろう。なにしろ51曲のうち、モーツァルトが出てくるのは25曲目。それまではグレゴリオ聖歌から始まって、中世・ルネサンス・バロック音楽が半分を占める。ロマン派はごく簡単にすませて、42曲目にはシェーンベルクが登場する。私のもっているCDともほとんど一致しないが、重なるうちでおすすめできるのは次の5枚だ(一部は著者の推薦盤と違う):
  1. Josquin: Missa Pange Lingua (Tallis Scholars)
  2. Rameau: Pieces de Clavecin (Rousette)
  3. Brahms: Symphony No.4 (Kleiber)
  4. Chopin: Etudes (Pollini)
  5. Hindemith: Kammermusik (Chailly)
3と4は一般にも有名だが、5を聴く勇気のある人は少ないだろう。しかしシャイーの指揮だけあって、よくも悪くも聴きやすい演奏だ。