運命の人(一) (文春文庫)
1972年に起こった西山事件を小説にしたもの(3・4巻は未刊)。事実関係を忠実にたどっているので、率直にいって小説としてはあまりおもしろくない。西山記者が強引に蓮見秘書をホテルに連れ込んだという記述も事実ではない。裁判でも、蓮見は「合意の上だった」と認めている。

この事件は、日本がいまだに法治国家になっていない現実を示している。沖縄返還に際して、米軍の移転費用の一部を日本側が負担する密約があった。当時の担当局長が密約の存在を認めているのに、外務省はいまだに密約の存在を否定している。

司法もこれについて判断しないで「情を通じた」などの取材方法を理由にして、記者を有罪にした。西山が起こした国家賠償訴訟も、最高裁で敗訴した。国家権力の濫用に対する最後の歯止めである司法が機能していないばかりか、行政と結託して国家犯罪を隠蔽するのが、日本という国なのだ。

しかし新たに情報公開訴訟が起こされ、民主党の岡田克也副代表は「政権をとったら沖縄返還に関する情報をすべて公開する」という方針を明らかにした。政権交代の効果は、このような前政権の隠していた情報を明らかにすることで、そういうルールが確立すれば、官僚の情報独占はかなり改善される。民主党になって何が変わるのかよくわからないが、この点だけでも政権交代の意味はあろう。