タイトルはむずかしそうだが、中身は『生物と無生物のあいだ』の続編のようなエッセイ集である。内容にあまりまとまりがないので、第7章「ミトコンドリア・ミステリー」について簡単に感想を書いておく。

第7章でテーマになっている細胞内共生説を提唱したリン・マーギュリスには、1990年にNHKの「地球環境」特集でインタビューしたことがある。ミトコンドリアが細胞内共生によってできたものだという彼女の論文は、学会誌に15回も拒否されたが、現在では定説として確立している。細胞内共生としてもっともよく知られているのは、葉緑体である。これは藍藻というバクテリアが植物に寄生して宿主も生き延び、共進化した結果、光合成を行なうようになったと考えられている。

マーギュリスはさらに進んで、地球上の生物はすべて競争と共生によって進化したというsymbiogenesisという理論を提唱し、ジム・ラヴロック(彼にもインタビューした)とともに、この理論を地球にも適用した。さすがにここまでくると、ついてくる生物学者はいなくなったが、地球を動的平衡ととらえる「ガイア」という言葉は、地球環境ブームに乗って流行語になった。世の中にはこれに便乗して「競争から共生へ」などという話がよくあるが、これは間違いである。

大きな生物Aと小さなBが生存競争を行なうとき、両者の関係はいろいろなケースが考えられる。一つはAがBを捕食する場合、もう一つは逆にBがAに寄生する場合である。このときBがAに感染して宿主を殺してしまうと両方とも死亡するが、たまたまAもBも生存する微妙なバランスがあり、これを共生という。つまり共生というのは「みんな仲よくする」ことではなく、競争によってどちらも相手を殺しきれない特殊な状態なのだ。

だから「人間と地球の共生」などというのも間違いである。共生というのは互恵的な関係だが、人間は地球(ガイア)に一方的に寄生しているだけで、地球は人間から何も得ていない。このまま環境破壊を続けたら、熱帯の砂漠化などによって地球は温暖化して人類は死滅するだろうが、地球は何ひとつ困らない。生物のうち乾燥質量で最大なのは昔も今もバクテリアであり、彼らは温暖化によって増殖するだろう――とラヴロックは笑った。