池尾さんのインタビューがダイヤモンド・オンラインに出ている。
日本経済は1980年代初頭まで、欧米の背中を追うキャッチアップ型であり、成長し続けた。経済社会が成熟し、長期停滞に陥って、需要喚起策が必要になるという経済構造とは無縁だったから、ケインズ政策は必要なかった。[・・・]いまだに、ケインズ政策によってひどい目にあった、という経験がわれわれにはない。

欧米は第二次オイルショック時にスタグフレーションに見舞われ、塗炭の苦しみを味わったからだ。オイルショックによってサプライサイド(供給側)に大問題が発生したのに、総需要喚起というケインズ政策で立ち向かい、不況を克服できないままハイパーインフレーションを引き起こしてしまったのだ。だから、ケインズ政策に対して、欧米には深い懐疑がある。

サプライサイド、もの作り能力が維持されている場合は、ポテンシャリテイが堅持されているのだから、政府が需要喚起策を行えばよい。そうではなくて、70年代の米国のようにもの作り能力、供給能力が劣化している場合は、潜在成長率が低下しているのだから、政府が需要を喚起しても、いたずらに財政赤字が拡大するだけで何ら効果はない。どちらも不況だが、原因は違う。その正確な診断が、原始ケインジアンがはびこる日本ではできないことこそが問題だ。
日本人はスタグフレーションで痛い目にあった経験はないが、90年代のバラマキ景気対策が長期不況から脱出する役に立たず、財政赤字だけが増えたという経験はもっている。定額給付金への強い批判は、国民(というかメディア)がその教訓を学んだ成果だろう。問題は、政治家がまだその教訓を理解していないことだ。それどころか、「ドイツはケインズ政策を理解していない」と他国を批判する麻生首相の知能程度は救いがたい。新しいマクロ経済学を、ふりがなつきの漫画で出版するしかないのだろうか・・・