一昨日の記事に安富歩氏から「スウェーデンモデルをどう見るか」というコメントをもらった。昨日ちょうど「北欧モデル」の話を、ある大学の研究所長としたところだった。北欧モデルの成功は「英米型の自由主義経済が効率的だ」という経済学者の多数意見に対する挑戦で、最近ではSachsEasterlyが論争している。
The Nordic states have also worked to keep social expenditures compatible with an open, competitive, market-based economic system. Tax rates on capital are relatively low. Labor market policies pay low-skilled and otherwise difficult-to-employ individuals to work in the service sector, in key quality-of-life areas such as child care, health, and support for the elderly and disabled.
とSachsのいうように、大きな政府が非効率だとは限らない。少なくとも1人あたりGDPでみるかぎり、北欧型が英米型をしのいでいる。Easterlyがハイエクと同じく、福祉国家を社会主義と一緒くたにしているのは間違いである。


北欧の労働生産性が高いのは、解雇自由で労働移動がすみやかなことが原因といわれているが、このモデルに普遍性があるかどうかはわからない。北欧諸国は人口数百万人で、労働人口が均質で教育程度が高い。北欧の労働者保護のインフラになっているのは、組織率80~90%の産業別労組であり、他の国がまねるのはむずかしい。同じように税率の高い欧州全体をみると、1人あたりGDPはアメリカの75%以下であり、福祉国家の経済効率は一般にはよくない。

要するに北欧モデルは小国の特殊なシステムで、日本の6000万人以上の労働人口をこれから産業別労組に組織するのは不可能だし、政府が労働者の面倒を全面的にみるのは財政負担がとても耐えられないだろう。ただ日本的福祉システムが崩壊した今、企業ではなく社会によってセーフティ・ネットを整備する必要があり、北欧型の積極的労働政策には学ぶべき点が多い。解雇自由にする代わりに、職業訓練などによって労働移動を円滑にする制度を、労組や政府ではなくビジネスベースで実現するしくみが必要だろう。