本書はごくオーソドックスな福祉の入門書だが、著者からの献本につけられた手紙によると、この程度の話も厚生労働省の審議会では「市場原理主義」と罵倒されるそうだ。それはたぶん経済学者が、厚労省にとって「不都合な真実」を語るからだろう。その最たるものが、当ブログでも紹介した世代間の不公平だ。本書の計算では、生涯の年金・健康保険などの給付と負担の差が、1940年生まれの人はプラス4850万円であるのに対して、2005年生まれの人ではマイナス3490万円。実に8340万円もの差がついている。

著者の提案は、年金を積み立て方式に変えて基礎年金を消費税でまかなうという常識的なものだが、この程度の改革にも厚労省の官僚は反対なのだという。この背景には、年金という厚労省の利権を税という財務省の利権に吸収されることへの抵抗がある。年金や健康保険料は税と同じなのだから、税務署が一括してとればよいのだが、厚労省は一元化に反対してきた。経済学者の論理を徹底すると、公的年金も公的健康保険もやめて、福祉=所得再分配は税で全部やればよいという結論に行き着くからだ。

原則論としては著者もいうように、年金や健康保険を公的に運営する理由はなく、自動車のように民間保険に強制加入させればよい。このところ「格差」論議がやかましいが、その割にはこういう福祉の非効率性を是正しようという意見は、野党からもほとんど出てこない。今週のACII.jpにも書いたが、社会保障も税も国民背番号で一元管理し、福祉行政は税に統合して厚労省を廃止すれば、最低所得は大きく引き上げることができよう。