派遣労働者の置かれている状況が、日本経済の悲惨な現状を集約していることは確かだが、その怒りが役所に住居の斡旋を求める陳情になるのでは、現状を打破できない。彼らの敵は、生産性を大きく上回る賃金をもらって終身雇用を保障されているノンワーキング・リッチなのだ。その最たるものが、退職後も第2、第3の職場まで「超終身雇用」を保障される高級官僚である。

あまり注目されていないが、天下り廃止を決めた公務員制度改革が政令によって骨抜きにされ、渡辺喜美氏がこの政令の撤回を求める要望書を自民党の行革推進本部に提出した。今週の週刊文春で高橋洋一氏も怒っているが、この政令は法律と矛盾する規定を政令で定めるルール違反である。

昨年改正された国家公務員法では、天下りは「再就職等監視委員会」が承認することになっている。ところが野党がこの監視委員会の人事承認を拒否したため、なんと政令で「監視委員会の委員長等が任命されるまでの間、内閣総理大臣が権限を行使する」と定めたのだ。これは各省庁が権限を行使するということだから、結局いまと同じことになる。さらにこの政令には、あきれたことに「元職員でも必要不可欠な場合は斡旋できる」という規定が忍び込まされ、天下り後の再々就職を斡旋する渡りも公認された。

法律で「監視委員会が行なう」と明記されている権限を、政令で首相に変更するのは、法治国家の根幹にかかわる違法行為である。さすがに国会で民主党が問題にし、自民党の行革本部も「霞ヶ関の暴走だ」と首相を突き上げ、首相も「渡りは承認しない」と答弁した。メディアも渡りばかり話題にしているが、根本的な問題は監視委員会の権限を各省が乗っ取ることだ。これは日本が法治国家か官治国家かをわける重大な分かれ目である。