きのうは11万PVを超えた。予想どおり「派遣村」の記事に対する感情的反発が多いが、「反貧困」などというフレームで考えているかぎり、問題は永遠に解決しない。格差社会なるものの元凶はグローバリズムでも小泉内閣でもなく、「日本的経営」によって保護されてきた正社員と、そのあおりを食っている非正規社員の二極化なのだ。これは何度も書いたが、与野党ともに選挙目当てのポピュリズムで規制強化に走っているので、あらためてまとめておこう。

OECDは昨年の対日審査報告で、非正規労働者が1/3を超えた日本の労働市場の二極化を、OECD諸国に例をみない異常な現象だと指摘している。以前の記事でも紹介したように、非正規労働者の増加は小泉内閣の発足よりはるか前の1990年代前半から始まっており、構造改革とか市場原理主義とは何の関係もない。それは長期不況に対応してコストの低い労働者を増やす、実質的な賃金切り下げの手段だったのだ。図のように非正規労働者の比率の高いサービス業ほど、平均賃金(正規+非正規)が下がっている(原文p.179)。
サービス業の賃金が低いのは、その労働生産性が低いためで、本来は正社員の賃金を下げればよいのだが、それが困難なために、特に中小企業が、正社員のほぼ半分の賃金(社会保険などを含む)ですむ非正規労働者を採用した。また業績が回復しても日本企業は正社員の雇用を増やさず、非正規社員で対応する。その最大の原因としてOECDが指摘するのは、日本の正社員の過剰保護である:
日本はOECD28ヶ国中で10番目に正社員の解雇規制が強い。特に2003年の労働基準法改正によって「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と定められたため、かえって解雇要件はきびしくなり、企業は労使紛争を恐れて正社員の雇用を控えるようになった。(原文p.178)
そして対日審査報告は結論として、日本政府に「労働市場における二極化拡大への対処と労働参加の促進」を求めている:
非正規労働者の比率は雇用者の三分の一を超え、公平と効率の面で深刻な懸念を惹起している。二極化の進行は、低賃金、短い職務経験、そして人的資本の改善・強化の機会が限定された人々によって構成される大きな階層を作り出している。これに対処するには、正規労働者の雇用弾力化、非正規労働者に対する社会保障制度の適用範囲拡大や職業訓練プログラムの拡充を含めた幅広い対策が求められている。(日本語版p.2)
強調した部分は、日本語版では(おそらく日本政府の抵抗で)「雇用の弾力化」と曖昧な表現になっているが、原文では
Reduce employment protection for regular workers to reduce the incentive for hiring non-regular workers to enhance employment flexibility.(p.187)
すなわち「正社員の雇用保護を削減せよ」と明確に書かれている。正社員の解雇規制を緩和し、労働移動を促進することは、OECDが同じ報告書で指摘するサービス業の生産性の低さ(アメリカの70%)を是正する上でも重要だ。それは老朽化した日本的経営を改め、情報革命に対応した産業構造に転換するという日本経済の最大の課題でもある。厚労省の進めている雇用規制の強化はOECDの勧告に違反し、構造改革に逆行するものである。