これは5年前の記事だが、昨今の雇用をめぐる混乱した議論をみていると、厚労省や政治家は高校の「政治・経済」で教わる程度の経済学も理解していないようなので再掲する。
まずいうまでもないことだが、賃金とは労働サービスの価格である。市場では図のように価格は需要と供給で決まる。これはバナナでも労働サービスでも同じだ。それを「労働力商品の価格は需要と供給に任されてはならない」などという「べき論」で変えることはできない。変えるには、市場を廃止して統制経済にするしかない。

次に同じく高校レベルの知識だが、価格が上がると需要は減る。労働の需要Dと供給Sが均衡する雇用水準をn*とすると、規制強化によってその価格(賃金)wが図のように均衡水準w*より高くなると、失業n*-nが発生する。ここで賃金を下げれば労働需要が増え、w*に達したら失業はなくなる。これは正社員を減らして非正社員を増やしてもよいし、正社員の賃金を下げてもよい。

現状は明らかに雇用=労働需要が不足しているので、賃金を下げれば雇用は増える。これは需要曲線がnで屈折している(需要が飽和する)ような特殊な場合を除いて、必ず生じる結果である。「日雇い派遣の禁止」など規制を強化することは賃金(雇用コスト)を引き上げ、失業を増やすだけだ。日本は社会主義ではないのだから、賃金を下げずに企業に雇用を強制することはできない。

ここで重要なのは、労働需要はGDPの従属変数だということである。労働供給はあまり変化しないが、労働需要は経済活動の水準によって大きく変わる。したがって雇用を増やすには、GDPを増やすしかない。GDPが上がると、需要需要がD'のように外側にシフトし、賃金もw'に上がって雇用も増える。

つまり「雇用対策」などというものは意味がなく、雇用を増やすにはGDPを高めるしかないのだ。「派遣村」のような騒ぎで同情を引いても、GDPが低下するかぎり労働需要は減り、賃金は下がる。この自明の事実を認識することが、冷静な雇用論議の出発点である。