トヨタが半世紀ぶりの赤字に転落する見通しになった。これはさほど驚くにはあたらないが、問題はトヨタやソニーがこけると、日本経済全体が沈没する産業構造だ。現状は一時的な景気後退ではなく、1990年と似た輸出バブルの崩壊が起こったと考えたほうがいい。利下げは、そのショックを緩和する「痛み止め」の意味は少しはあるかもしれないが、いくら麻酔を打っても病気は治らない。

輸出産業の大幅な業績下方修正は、長期的な水準からの一時的な乖離ではなく、むしろ為替が均衡レートに戻り、アメリカの消費バブルが剥げ落ちて、これまで上方に乖離していた輸出産業の業績が長期トレンドに水準訂正されたのだ。したがって今後の不況は、残念ながら麻生首相のいう「全治3年」といった短期的なものではなく、90年代のような「失われた10年」がまた始まるおそれが強い。

ただ今回の長期不況が90年代と違うのは、金融システムはあまりいたんでいないことだ。ボトルネックは金融ではなく、非製造業の低生産性である。図のように、日本の設備投資効率は製造業と非製造業で3倍ぐらい違い、前者(特に輸出産業)の効率の高さが、ここまでかろうじて日本経済を支えてきた。

ここ30年近く、日本経済は衰退を続けてきた。むしろ2000年代の「景気回復」が、異常な金融政策によって輸出産業を支えた長期衰退の中休みだったのだ。それでも製造業の生産性は15年以上かかって1990年ごろの水準に復帰したが、非製造業は1980年の半分以下の生産性のまま低迷している。しかも製造業のGDPシェアは2割(輸出産業は1割)に落ちたので、低金利や為替介入で輸出補助金を与える政策の効果は、ますます小さくなっている。

もう日本経済を一つの経済とみることが間違いなのだ。1割の働き手(輸出産業)が9割の扶養家族(国内産業)を支える産業構造は、これ以上維持できない。輸出産業は今後ますますグローバル化し、海外生産にシフトするだろう。それを「空洞化」などと非難するのはお門違いである。彼らには、規制に守られて生産性を上げないで、不況になったら政府の「景気対策」を求める扶養家族を食わせる義務はない。

中休みが終わって、また暗いトンネルが始まる。深刻なのは、政策当局が問題の所在を認識しないで、金利や財政赤字などのマクロ指標ばかり見ていることだ。むしろ急性の症状が出たアメリカのほうが問題を認識し、国民にも危機感が共有されているので、立ち直るのも早いだろう。日本でもっとも危機的なのは、危機感が欠如していることである。