FRBが事実上のゼロ金利に踏み切った。アメリカはすでにデフレ局面に入って、自然利子率は負になっていると考えられるので、やむをえないだろう。これで10年前の日本とほとんど同じ状況になったわけだ。それから10年、日本はいまだにゼロ金利ゾーンから抜けられず、またゼロになるかもしれない。その意味で、日本の教訓は貴重な意味をもつ。

日本の経験からいえることは、第一にゼロ金利は景気対策ではないということだ。景気対策としての効果はゼロになった段階で終わり、日銀が見ていたのは銀行の資金繰りだった。特に2000年前後は銀行の破綻を防ぐことが至上命令で、この意味ではゼロ金利は成功だった。銀行の業務純益は史上最高になり、不良債権を償却する原資ができた。償却のおかげで、法人税もゼロですんだ。

第二に、金融危機を脱却する決め手は銀行の財務の健全化だということである。いくらマネタリーベースを増やしても、不良債権を処理しないかぎり、銀行の健全性は回復しない。これを強制したのが、2003年の「竹中プラン」だった。それ自体の効果は限定的だったが、これをきっかけにして償却が一挙に進んだ。ゼロ金利・量的緩和は、それを支援する政策として大きな効果があったというのが、白川総裁の評価である。

第三に、ゼロ金利は巨額の預金者から銀行への所得移転だったということだ。バブル崩壊によって生じた富の損失は1200兆円といわれるが、そのうち600兆円は投資家が売り逃げた。残りの600兆円がネットの損失だが、これを誰かが負担しないかぎり、危機は終わらない。三菱総研の試算によれば、1992年から2005年までの家計の利子所得の機会損失は283兆円にのぼる一方、企業の利子負担は264兆円減少した。

つまり日本の金融危機が終わった原因は単純だ。ゼロ金利によってあなたの預金金利が銀行に移転され、その追い貸しによってゾンビ企業が息を吹き返して、バブルによる損失の穴埋めが行なわれたのである。本来はバブル崩壊の直後に企業の破綻処理によって株主が負担すべきだった損失を、15年かけて預金者が負担することで、日本経済は表面的には回復したのだ。それを「ゼロ金利で日本経済は回復した」などと喜んでいる人々は、つくづくお人好しである。