今週の『週刊東洋経済』にも紹介されているように、当ブログの当初の目的は読書の感想や思いつきをメモすることで、それは今でも変わらない。本書も専門的なので、一般のビジネスマンにはおすすめできないが、研究者には参考になるので、簡単にメモしておく。

本書は、Baumolの"The Free-Market Innovation Machine"をめぐって開かれた会議の記録だ。おもしろいのは、Solow, Arrow, North, Phelps, Blinder, Shiller, Malkiel...という錚々たる執筆者が、一致して「経済成長にとってもっとも重要なのはイノベーションだ」と認めていることだ。

Arrowも指摘するように、イノベーションは技術的な「発明」のことではない。紙も火薬も活版印刷も中国で発明されたが、新しい産業を生み出すことはなかった。Schumpeterは、イノベーションとは発明を製品に結びつける過程であり、発明は自由財だが、イノベーションは稀少だとのべた。イノベーションには資金と起業家精神が必要であり、それを可能にする制度的な基盤が必要だからである。

従来の経済学はイノベーションを機械的にしか扱ってこなかった、とSolowはいう。RBCにおいては、技術進歩は外生的なランダム・ショックにすぎず、内生的成長理論においても知識の「スピルオーバー」でしかない。こうした限界は、これまでのマクロ経済学が定常状態を説明することを目的にしてきたのが原因だ。イノベーションはそこに至る過程であり、それを説明するには行動経済学のような心理的な問題をマクロ的に扱う理論が必要だ。

他にもたくさん論文があるが、おおむね一致しているのは、特許の数で示される発明の大部分は大企業によって行なわれるが、既存のシステムを破壊するイノベーションは起業家によって行なわれることが多い、という点だ。それを可能にするのは、独立性の強い個人がリスクの高い冒険を行なうカルチャーと、それをバックアップする資金的・人的な基盤である。それは容易に作れるものではなく、シリコンバレーが依然として世界をリードしているのも、こうしたソーシャル・キャピタルの蓄積があるからだ。

日本に引き戻して考えると、高度成長期には、この意味でのイノベーションはあまり必要ではなかったといえよう。フレームワークはアメリカが示し、日本の企業はその枠内で小さな発明や改良を重ねればよかったからだ。しかし今、特にITの分野で必要とされるのは、従来の常識を破壊し、新しいフレームワークをつくるイノベーションであり、それを担うのは大企業でも政府でもなく、起業家なのである。