間抜けな官僚の種は、つきないようだ。またしても経産省の北畑隆生次官が、「原油高の原因はゴールドマンサックスやモルガンスタンレーの相場予測だ」と非難した。彼がバカで無責任であることは、当ブログでも何度も指摘してきたが、今度の発言は罪深い。所管官庁の最高責任者が特定の企業を犯人扱いするのは、ほとんど名誉毀損である。

投資銀行の予測したのは今年下半期の価格、つまり先物相場である。先物というのは、ペーパーバレルを売買する証券市場だから供給は無限にあり、いくら投機筋が買い上げても現物の需給には影響しない。たとえば今年12月に原油がバレル100ドルに下がると思う投機筋は、150ドルで空売りをかけ、200ドルになると思う投機筋は150ドルで先物を買うだろう。つまり先物相場は投機筋によるギャンブルであり、それによって現物のガソリン価格が上がることはありえない。もし北畑氏が「ファンダメンタルズは60ドルだ」と信じているのなら、空売りすれば大もうけできるだろう。

先物相場が上がると、何が起こるだろうか。原油採掘への投資の増加と、その結果としての原油価格の下落である。Economist誌によれば、数年前に起こったニッケル相場の上昇によって採掘が進み、その相場は半分になったという。いま短期的に原油価格が上がっているのは、需要増に対してロシアなど後進国の採掘設備の拡張が追いつかない短期的な調整過程であり、そのうち増産が始まる。図のように価格上昇によって需要増のペースも落ち、NY原油市場では空売りが買いを上回り始めたという。


原油のような流動性が高く規模の大きな市場で、一部の投機筋が相場を操作することはできない。まして投資銀行の予測で相場が決まるわけがない。昔、大蔵省は円高を予測する邦銀のアナリストを出入り禁止にして世界の笑いものになったが、経産省にはいまだに「天気予報で天気が決まる」と考える間抜けな役人がいるわけだ。

こういう市場では、経済学の教科書どおり、価格が上がれば消費が減って供給が増える。ゲアリー・ベッカーの予測によれば、今回の値上がりで、長期的には原油の消費は60%下がり、供給は35%増えるという。これは資源節約のためには望ましいし、CO2削減のためにも排出権取引よりはるかに効果的だ。