「読んではいけない」本ばかり増えるのは困ったものだが、本書も画像にリンクを張ってない。著者(フリーライター)が、著作権法をまったく理解しないでインタビュー原稿を並べた、間違いだらけの駄本だからである。しかし資料価値はある。特に注目されるのは、天下り大学院として有名な政策大学院大学の岡本薫教授のインタビューだ。

彼は文化庁の著作権課長だったころ、「自動公衆送信」など日本独自の概念を著作権法に加え、世界でもっとも厳密にインターネット配信を違法化した人物だ。その彼が、「著作権の問題を複雑にしているのは映画会社とテレビ局の政治力だ」と官僚の責任を棚上げにするのはともかく、驚くのは彼が「知的財産権を守る超党派議員連盟」の会合で配布した「オーバービューを欠いた『間抜けな提案』の例」という文書だ。本書には10項目のうち5項目しか書いてないが、こんな調子だ:
  1. 某民放会長:自由に再放送できるよう、既放送番組の著作権を否定せよ→NTVの番組をTBSが再放送できるようになってしまう
  2. 図書館関係団体:図書館での本のデータベース化・送信を自由化せよ→国会図書館以外の図書館はすべて廃止されるかもしれない
  3. 関係事業者・総務省:IP放送は著作権法上は有線放送とすべき→有線放送向けの「特権」を1億人が使って音楽配信ができるようになる
まず1の「某民放会長」とは誰のことか、ぜひ教えてほしいものだ。この局は民放連を除名されるだろう。民放連は、著作権法を理由にしてIP放送を「審査」し、彼らの番組のIP配信を妨害しているからだ。

2は(岡本氏は知らないのかもしれないが)グーグルが、すでにBook Searchで行なっていることである。このおかげで廃止された図書館なんて一つもない。

笑って見過ごせない重大な問題は、3である。これは総務省のみならず、文化庁以外のすべての官庁とユーザーの提案だが、岡本氏は驚いたことにその意味を理解しないで反対していたらしい。彼は、有線放送向けの「特権」を1億人が使えると思っているのだろうか。有線放送の免許を持っていない一般人には、そんなことはできない。できるのは、総務省が届け出によって認めた「電気通信役務利用放送事業者」だけであり、全国で20社しかない。

文化庁の元著作権課長が、こんな基本的なことを知らないとしたら、それこそ本物の間抜けである。相手が政治家やルポライターならだませると思っているとすれば、著作権政策を意図的にミスリードする嘘つきだ。どっちにしても、こんな人物が日本の奇怪な著作権法をつくり、それを後輩がさらに改悪しようとしているのは悲劇である。中山信弘氏じゃないが、著作権法は、いったん火事になって焼け落ちたほうがいいのかもしれない。