知的財産権研究会のシンポジウムに行ってきた。1985年から2ヶ月に1回つづけられ、100回記念という息の長い研究会だ。テーマは「著作権法に未来はあるのか」。驚いたのは、会長の中山信弘氏が「今のままでは、著作権法に未来はない」と、現在の制度の抜本改革の必要を説いたことだ。特に検索エンジンが「非合法」になっている問題については、6月16日の知的財産戦略本部の会合で「合法化」の方向が出され、来年の通常国会で著作権法が改正されるという。メモから再現すると、こんな感じだ:
著作権法は、300年前にできて以来、最大の試練に直面している。特にPCやインターネットで膨大なデジタル情報が流通し、数億人のユーザーがクリエイターになる時代に、限られた出版業者を想定した昔の法律を適用するのは無理だ。私も最近、教科書を書くために初めて全文を読んだが、こんなわかりにくい法律は他にない。昔建てた温泉旅館に建て増しを重ねたようなもので、迷路のようになっていて、火事が起きたらみんな死ぬ。

資源のない日本では、人々の知恵を最大限に活用して生きるしかない。それなのに、検索エンジンも動画サイトも、中国や韓国にさえ抜かれている。日本人に技術力がないわけではないのに、法律がイノベーションを阻害している。私たちが子孫に残せるのは、せめてこういうひどい制度を手直しして、彼らが新しいビジネスに挑戦できる社会にすることだ。

海外にいる日本人が、日本の番組を録画して見るというささやかなサービスを、NHKと在京キー局がよってたかって裁判でつぶすのは異常だ。彼らは著作権法を口実に使っているだけで、実際には全国で番組が見られるようになったら、県域免許でキー局の番組を垂れ流している地方民放の利権がおかされるからだろう。そういう利権あさりを裁判所が手助けするのも不見識だ。

著作権の保護期間を死後70年に延長するという話も、根拠がない。権利者団体も「収入増にはつながらない」ことを認めながら、「リスペクトが大事だ」という。著作権法は経済的権利を守る法律であって、リスペクトなどというものは関係ない。パブリックドメインになっている夏目漱石は、リスペクトされていないのか。条文を一つ変えるだけで、映画会社に何十億円も転がり込むというのが本当の動機だろう。これは創作のインセンティブにもならないし、文化の発展にもつながらない。期間延長には断固反対。命がけでも阻止する。
という小倉秀夫氏も真っ青の激越な主張で、みんな茫然としていた。本来こうした微妙な問題に賛否を鮮明にはできない立場の中山氏が、このように力強い主張を公的に表明したことは、政治的にも重要な意味がある。今まで政治の場に出てくるのは権利者側の話ばかりで、文化庁は消費者を無視してきたが、まだあきらめるのは早い。中山氏は「ベルヌ条約を金科玉条にすべきではない」とも言っていたので、著作権法の抜本改正は不可能ではない。まだ日本は終わってない、と思う。

追記:中山氏は、シンポジウムの事前インタビューでも、同様の考えを語っている。