「平成19年度電波の利用状況調査」についての意見

池田信夫(上武大学大学院経営管理研究科)
山田肇(東洋大学経済学部)
  1. 770~806MHz帯(以下800MHz帯)は主としてテレビ中継のFPUに割り当てられているが、実際にはマラソン中継だけの臨時利用である。したがってマラソン中継の行なわれていない時間・場所ではただちに開放すべきである。
  2. 総務省は、放送局に800MHz帯を用いたFPU中継の放送実績と今後の放送計画を報告させ、その結果を公表すべきである。
  3. 移動しながら中継する技術はすでに実用化されており、移動体SNG中継車が各局に配備されている。これを使えばマラソン中継もSNGで可能なので、800MHz帯のFPUへの割り当てはやめるべきである。
  4. ラジオマイクなど他の用途も、他の帯域に移動可能である。
  5. このように時間的にも空間的にもきわめて限られた用途に36MHzも占有することは、電波の有効利用という観点から容認できない。800MHz帯は特定の業務用無線に割り当てるのではなく、汎用無線に開放すべきである。
800MHz帯の現在の主要な用途は、FPUと呼ばれるテレビ中継用の局間伝送(ARIB STD-B33)である。しかし今回の意見募集の資料「平成19年度電波の利用状況調査」(以下「利用状況調査」)の5ページにも見られるように、FPU局数は2007年に全国で141局しかなく、2004年の160局から減少している。2007年6月の情報通信審議会・電波有効利用方策委員会報告でも、次のように通信と併用できると指摘している:
放送FPU の利用形態は、マラソン中継等の臨時利用であり、利用場所も限定され、実際の使用周波数も限定されている。また、平成16 年度電波利用状況調査によれば無線局数は全国で160 局程度である。したがって、放送FPU と電気通信の干渉形態については、現在の放送FPU の利用形態と使用周波数を前提とすると、干渉が発生する確率が小さく、運用調整により混信を回避できる可能性があるため放送FPU とのガードバンドを不要とすることができる可能性がある。(pp.39-40 強調は引用者)
マラソン中継が行なわれる場所は限られているので、全国のほとんどの場所は今でも通信に利用できる。また中継の行なわれる時間も限られているので、その数時間だけ通信の利用を止めれば干渉は起こらない。したがって800MHz帯は、FPU中継の行なわれていない時間・場所ではただちに無線通信などに開放すべきである。このため総務省は放送局にFPU中継がいつ、どこで行われたのかという利用実績および今後の利用計画を報告させ、公表すべきである。

テレビ中継は、現在はSNGで行なうのが普通で、FPUも通常はGバンドなどの高い周波数が使われる。800MHz帯を使うのは、マラソンや駅伝のように移動しながら固定局に送信する場合だが、FPUは不可欠ではない。すでに移動体でSNGを行なうmobile news gathering あるいはsatellite truckなどと呼ばれる技術が確立しており、日本でも移動SNG中継車がNHK・民放各局に配備されている。このような機材を使えば、マラソン中継もSNGによって可能であり、800MHz帯を使う必要はない

利用状況調査は「HDTV対応の高画質化を図る」との評価結果を提示しているが、ほとんど利用されていない周波数帯で新技術を開発するのは不適切である。パーソナル無線について「無線局数が著しく減少している」ことから廃止を決めているのであれば、同様にFPUも廃止すべきである。どうしても必要な場合は、放送局が通信業者から借りればよい。このほかラジオマイクの使うのは周波数も面積もごくわずかで、他にも利用できる帯域があるので、他の帯域に移動すべきである。

貴重なUHF帯を36MHz(時価4716億円)*も、マラソン中継バンドとしてほとんど未利用のまま放置することは、電波の有効利用という観点から容認できない。この帯域は、情報通信法(仮称)の精神にそって、通信・放送などの用途や特定の物理的インフラに依存しない汎用無線とすべきである。将来、IEEE802.16eや802.20のような広帯域の移動無線が800MHz帯で利用可能になれば、それを使ってHDTV中継を行なうことも可能になろう。

*鬼木甫氏の計算では、日本の周波数の価値は131億円/MHzである。

追記:27日には、元総務省情報通信政策局長の竹田義行氏をまねいて、業務用無線のあり方についてのICPFセミナーを開く。