フェルプスがサブプライム危機についてのエッセイをWSJに寄せている:
最近まで、未来は合理的に予見できると称する経済学と、リスクを合理的に管理できるという「金融工学」と、インフレ目標のような「ルール型金融政策」ががファッションだった。しかし、その種の理論は最近の大規模な危機をまったく説明できない。

1920年代には、ナイトやケインズが「不確実性」にもとづく経済学を構想した。またハイエクの理論は、フリードマンや私が考えた自然失業率の理論の先駆だった。彼は、長期的には政府は金利や失業率をコントロールできないと考えた。しかし、これはその「自然」な率が一定だということではない。

ハイエクの理論によれば、自然利子率はバブルによって上昇し、中央銀行がそれに沿って金利を上げないとインフレが起こる。これが今回、起こったことに近い。
私もハイエクの本を書く必要上、彼とケインズのややこしい論争(というかハイエクの一方的な批判)を読んだが、彼らの見解は見かけほど違っていない。2人とも、長期的な自然利子率や自然失業率はコントロールできないという点で一致していたが、ケインズは短期的には政府の金融・財政政策に意味があると考え、ハイエクは中央銀行が自然利子率から外れた金利を設定すると、経済はかえって不安定化すると論じた。

大恐慌はケインズが正しかったことを示すようにみえたが、最近の研究はハイエクのほうが正しかったことを示唆している。今回も、おそらく歴史はハイエクが正しいことを証明するだろう。「自然率」は人々の心理によって決まるもので、政府がコントロールできないからだ。

最近の状況を考えるには、RBCとかDSGEなどの衒学的な飾りばかり多い「設計主義的合理性」の理論より、1930年代の巨匠の議論のほうが参考になる。LucasからPrescottあたりまでの理論は、あと100年ぐらいたったら、マーシャル~ケインズ~ハイエク~カーネマンと続く経済学の流れの脚注みたいなものになるのではないか。