先日の記事がYahooニュースのヘッドラインになって、きのうは10万PVを超えたので、法的な問題を補足しておく(これは弁護士と協議した上の結論である)。

デジコン委員会はB-CASについて14日、現行方式以外に「チップ方式」、「ソフトウェア方式」の3つを具体案としてあげた。その主眼はコピー制御なので、大規模な顧客管理を行なう現行方式は実際には選択肢ではない(それでは見直しにならない)。いずれにせよ無用で高コストのB-CASカードを廃止し、B-CAS社を解散することは既定方針である。

争点はその先だ。ダビング10を法的に強制するという選択肢は放棄されたものの、放送波を暗号化し、その暗号鍵とダビング10を抱き合わせ(拘束条件付取引)にするという方式が有力らしい。しかしこれは前の記事でも書いたように、違法(独禁法19条一般指定13項)である。同様のbroadcast flagは、アメリカで違法とされて廃止された。

世界的にみても、無料放送にコピー制御をかけている放送局はない。BBCのIP配信iPlayerは視聴を7日間に限るDRMをかけているが、コピーフリーだ。これがiPlayerが大ヒットした原因である。もちろんBBCも、放送にはまったくDRMをかけていない。これはすべての契約者に広く無条件で放送するというBBCの根幹にかかわるからだ。同じ意味で、NHKがコピー制御をかけることは放送法に違反する。第9条11項ではこう定めている:
協会は、放送受信用機器若しくはその真空管又は部品を認定し、放送受信用機器の修理業者を指定し、その他いかなる名目であつても、無線用機器の製造業者、販売業者及び修理業者の行う業務を規律し、又はこれに干渉するような行為をしてはならない
ダビング10以外には、EPNのようにコピーフリーにしてネット配信などを不可能にする方式と、フィンガープリントのように違法コンテンツを事後的に検出する方式があるが、これらも同じ意味で放送法違反である。数百万人が無料で見る放送の海賊版を有料で配信することはほとんど不可能であり、すべての放送にDRMをかける意味はない。

根本的な問題は、誰のために見直すのかということだ。ダビング10のおかげで地デジはアナログ放送より不便で、DVDレコーダーの売り上げも落ちている。これが非関税障壁になっているため、外資も参入できない。北米のトップメーカーVizioの液晶テレビは、32インチで550ドルとブラウン管なみの価格だが、日本では買えない。これは消費者の犠牲のもとに(あるかどうか疑わしい)権利者の利益を守るものだ。福田内閣で出された消費者重視の方針を、麻生内閣が継承するのかどうかが問われている。

次の通常国会に、総務省の要求している「地デジ移行対策費」2000億円が提出されるが、今のままでは2011年7月に5000万台以上のテレビが粗大ゴミになり、高齢者や低所得者の「ライフライン」となっている放送が強制終了される。これは国会で、「消えた年金5000万人」並みの騒動になることは確実だ。まして地デジをわざわざ不便にして移行を阻害するダビング10を総務省が省令で定めたら、社保庁のように民主党にいじめ抜かれるだろう(当ブログを読んでいる民主党議員は多い)。

NHKはドタバタの末、受信料を4年後に月額150円値下げするという方針を表明したが、こんなものが「視聴者への還元」だとは誰も思っていない。BBCのようにコピーフリーですべての番組を放送し、国民負担でつくった番組を無料でIP配信して国民の共有財産にすることが真の社会還元である。ダビング10を続けるという決定が出たら、消費者がNHKを放送法違反で告訴することも選択肢の一つだ。デジコン委員会の結論を、公取委もアメリカ大使館も見守っていることを自覚した方がいい。

追記:英文ブログにも書いた。