福田首相の後継として麻生太郎氏が本命らしいが、私は彼が首相になることには反対だ。その理由は、彼が地底人を経済顧問にしているからだ。リチャード・クー氏は「不況のときは、戦艦大和でも何でもいいから巨額のバラマキをやれ」という、半世紀以上前の素朴ケインズ主義をいまだにとなえている。こんな政策をとったら、日本経済も財政も破綻することは明らかだ。

同じ理由で、いま政府がやろうとしている「総合経済対策」も税金の浪費である。今週の『週刊東洋経済』の「不確実性の経済学」特集(私も原稿を2本書いた)で、小島寛之氏も書いているように、こうした時間非整合的な政策は、消費者の期待形成や企業の戦略を混乱させ、結果的には何もしないのと同じことになる(インフレだけが残る)。最近の経済学が明らかにしたように、消費者や企業の行動を決めるもっとも重要な要因は心理だから、それを勘案しないで物量だけで経済が動くと考えるのは時代錯誤である。

金融政策の有効性も限られている。1930年代のように、銀行が大量に破綻しているときに中央銀行が金融を引き締めるといった誤った金融政策は絶大な効果を発揮するが、逆は真ではない。企業の投資意欲がないとき、いくら通貨を供給しても意欲を作り出すことはできない。つまり金融政策には非対称性があるので、インフレ目標でデフレを脱出できるなどという議論はナンセンスである。クルーグマン自身が認めるように、中央銀行は人々の期待に働きかける手段をもたないからだ。

人々が単純な「合理性」にもとづいて行動しないことが明らかになった以上、期待効用最大化などという公準を捨て、実証に耐える意思決定の理論を確立する必要がある。人々の心理についての実証データなしにメカニカルな最適化行動を想定するマクロ経済学は、現在のようなグローバルな危機を説明できない。同じ特集で斎藤誠氏もいうように、金融・資本市場では「規制か自由か」という従来の図式は無意味で、人々の非合理的な心理を計算に入れた政策が必要だ。

もう一つの問題は、財政・金融による「景気対策」は、基本的に資金繰り(現金制約)を緩和して企業の淘汰を阻害する政策だということである。ハイエクはサイバネティックスの概念を援用して、企業の破綻はシステムが正常な状態から逸脱したとき、それを知らせる負のフィードバックだと考えた。ケインズ的な景気対策は、企業の破綻を阻止することによって、こうした発見過程としての競争の機能を破壊するのである。

日本が「失われた10年」のトンネルを抜けても成長軌道に乗れない最大の原因は、バラマキ政策で市場のフィードバック機能が破壊され、生産性の低い古い企業が生き残って新しい企業をcrowd outしていることにある。「ロスジェネ」が中高年のノンワーキング・リッチの犠牲になっている原因も同じだ。景気対策は効果がないばかりでなく、インカンバントを守ってイノベーションを阻害し、日本経済の衰退を早める点で有害である。