昨夜9時過ぎ、新聞社から電話がかかってきて、「福田さんが辞めたんですけど」といわれ、「え?どこの福田さん?」と聞いてしまった。「いずれこうなるとは思ってたけど、変なタイミングですね。まさか農相問題がきっかけということはないでしょう」と答えたが、いやになっていた首相の最後の小さな引き金ぐらいにはなったかもしれない。

うんざりするのは、ここ15年で9人も首相が交代する「イタリア病」だ。小泉首相以外は、平均1年半ぐらいしか続かない。特に「ねじれ国会」になって以降は、みんなが拒否権をもち、何も決まらないアンチコモンズ状態が続いてきた。次の総選挙で民主党が衆議院で第一党になっても、自公で過半数を維持すると、ねじれは変わらないまま再議決もきかない、完全なデッドロックになる。

これはゲーム理論でおなじみのナッシュ交渉で、「痛み」をともなう政策はすべて拒否されるので、みんなの要求を足して2で割るバラマキが常套手段になる。これは政治家にとっては選挙向けに有利になるし、官僚にとっては「補正で*百億円とった」というのは実績になる。コストは国債(最終的には税金)という形で目に見えないので、国民負担にただ乗りすることが与党と霞ヶ関ではWin-Winの解になる。

しかし野党はバラマキの恩恵にあずかれないので、交渉を拒否することによって問題をチキン・ゲームに持ち込む。ここでは絶対に妥協しないと決めた頑固者が勝つから、今回の福田首相のように、弱虫は降りることがナッシュ均衡だ。その意味では彼の行動は合理的で、辞任会見の「野党があれでは誰が首相をやっても同じ」という他人事みたいなコメントも当たっている。

今後は小沢一郎氏が政局の中心になるだろうが、彼の党内基盤は見かけほど強くない。自民党を上回るバラマキとドブ板選挙という古い政治手法に、若手の不満が強い。また彼は官僚に甘いので、本質的な改革は期待できない。他方、官僚も細川政権のとき小沢氏についた者は、斎藤次郎大蔵次官(当時)のように各省で徹底的にパージされたので、小沢氏は霞ヶ関にも足場がない。

そんなわけで、麻生vs小沢のバラマキ合戦では何も変わらないだろう。Economistもいうように、日本の政治が変わる可能性は、小池百合子=中川秀直を軸にして、民主党の反小沢派を巻き込んで政界再編するぐらいしかないのではないか。意外に小泉氏の出番もあるかもしれない。