私は以前から周波数オークション(および逆オークション)を提案しているのだが、総務省には聞いてもらえない。2001年にその是非が検討されたときも、審議会に経済学者がいないので、「キャリアの経営が破綻する」とかいうナンセンスな理由で却下された。しかし本書を読むと、オークションというのは、そんな恐いものではないことがわかるだろう。

オークションは、マクミランもいうように自分の評価を正直に申告させるメカニズムである。しかし実際には、人間は合理的でも正直でもないので、eBayやヤフオクではスナイパーなどさまざまな変則的行動が起こる。本書は実験経済学の成果も踏まえて、ゲーム理論の最新の成果をおもしろく伝えている。

こうした理論で、ウェブ上で起きている現象を説明できる。たとえばGoogleが急成長した一つの理由は、広告オークションだ。検索広告はGoogleの発明ではなく、Bill Grossが彼の特許を売り込みに来たとき、Eric Schmidtはそれを蹴った。Google自身も、検索広告がこれほど大きなビジネスになるとは予想していなかったのだ(のちにGrossはGoogleを訴えて巨額の賠償を勝ち取った)。

しかし検索ページ上の場所をオークションで売るというアイディア(これはGoogleの特許)は、それまでの広告の常識をはるかに上回る収入をもたらした。この理由は、本書のビッド・シェイディングの理論で説明できる。広告に応札するスポンサーの評価額をv、入札価格をpとすると、その余剰E=v-pを最大化する均衡入札価格p*は

 p*=(1-1/n)v

となる。ここでnは応札者の数で、2人のオークションではp*=v/2、つまり自分の評価額の半分の価格を提示すればよい。ところがnが増えるにつれてp*はvに近づき、nが無限大になると、p*=vとなる。つまり応札者が多いと、スポンサーの余剰はゼロになり、広告による利益をすべてGoogleがとるのだ。従来型の広告では、スポンサーと媒体を仲介する広告代理店が余剰のほとんどをとってしまうが、Googleは代理店を「中抜き」することで高い利益を上げたわけだ。

他方、日本ではいまだに電通が、ナショナル・スポンサーを独占している。Yahoo!Japanが強いのも、電通を使っているからだ。スポンサーも、どんな画面に掲示されるかわからないAdWordsやAdSenseを好まない。ここでも、リスク回避的な行動がゼネコン型の中間搾取を支える構造がみられる。オークションのような透明なメカニズムで、新規参入を促進することが官民ともに必要だ。