『季刊AT』という雑誌に、槌田敦氏の「温暖化の脅威を語る気象学者たちのこじつけ理論」という論文が出ている。著者は著名な物理学者で、この原文は今年の国際学会誌に掲載されたものであり、トンデモ論文ではない。その主要な論点は、
  • 地球温暖化は、CO2蓄積の原因であって結果ではない
  • CO2濃度の上昇の主要な原因は、気温上昇であって人間活動ではない
ということである。くわしい論証は英文論文にあるが、その意味は図1をみただけでもわかるだろう。この図は過去22万年間のCO2濃度と気温変化(ΔT)とメタン(CH4)濃度を比較したIPCCのデータだが、ほぼ完全な相関関係がみられる。絶対的な気温でみても、現代より1000年前の「中世温暖期」のほうが気温が高く、最高気温は10万年前に記録されている。この原因が人間活動でないことは明らかである。


図1 過去22万年間のCO2濃度と気温(IPCC)

この相関をCO2上昇→気温上昇という因果関係と解釈するのが大方の見方だが、相関関係が因果関係を意味しないことは、統計学の初歩である。CO2が気温を上昇させるのか、気温上昇によって生物が増え、海水温が上昇してCO2の放出量が増えるのかは自明ではない。詳細にみると図2のように、気温の変動(実線)がCO2濃度の変動(破線)に数年先行している。このデータを計測したKeelingは、気温変化がCO2濃度変化の原因だと結論している。気温変化の最大の原因は、太陽活動や対流の変化である。大気中で最大の要因は数十%も含まれる水蒸気であり、0.03%しか含まれないCO2の影響は、通常は無視できる。


図2 20世紀後半の気温とCO2濃度

同じ趣旨の槌田氏の論文は、日本物理学会誌や気象学会誌にも掲載されたので、興味のある読者はウェブサイトを参照されたい。私は気象学の専門家ではないので、彼の説が正しいのかどうかは判断できないが、この問題はまだ論争中であり、学問的な決着がついていないことは明らかだ。

CO2の増加が温暖化の原因か結果かという基本的な問題についてさえ、このように議論のわかれる状況で、「温暖化サミット」だの「排出権取引」だのと騒ぐのは、あと10年もすれば、群衆的行動によるバブルだったということになるリスクが高い。少なくとも日本政府は排出権取引を採用すべきではないし、ポスト京都議定書の制度設計も、こうした科学的な疑問が解決してからにすべきである。

追記:対流の変化で、地球が寒冷化する可能性を指摘する論文がNatureに掲載された。槌田氏も、100年スパンでは寒冷化するリスクが大きいと予測している。これは凍死など、温暖化よりはるかに大きな被害をもたらすので、温暖化対策予算の1/100ぐらい寒冷化対策に使って、ヘッジしたほうがいいのではないか。