プリンタの使用ずみインクカートリッジを里帰りさせるプロジェクトが先月から始まった。プリンタ・メーカー6社が郵便局に使用ずみカートリッジの回収箱を置き、それを分別して各社に返送し、リサイクルする。「ライバル企業が手を取り合い、環境問題に取り組む」ことをアピールするのがねらいだという。

しかし武田邦彦氏もいうように、プラスチックを分別・再成形するリサイクルは、資源の浪費である。それより効率的なのは、カートリッジの再利用、つまりインクを詰め替えることだ。環境にやさしいプリンタ・メーカーは、当然こういうビジネスを推奨しているのかと思ったら、エプソンキヤノンも再生カートリッジのメーカーを訴え、エプソンは敗訴、キヤノンは勝訴した。細かい法的な争点には立ち入らないが、「法と経済学」の観点からみると、再生品を違法とする判決は反競争的であり、資源の浪費をまねく。

先日、私のプリンタのインク(キヤノンBCI-9BK)が切れたので、近所の電気屋に買いに行ったら、これまで使っていた再生カートリッジがなかった。店員によると「訴訟に負けて生産中止になった」とのことなので、詰め替えインクを買ったが、8本分で約2500円。純正のカートリッジだと1本で1100円だ。私のプリンタは12000円の安物だから、カートリッジ11本で本体が買えてしまう。本体の価格を安く見せかけ、高いカートリッジでもうけるしくみだから、詰め替えられては困るのだ。

もちろん、こういう「抱き合わせ販売」は携帯電話やゲーム機でも行なわれており、違法ではない。しかし一方で資源を有効利用する業者を訴訟で駆逐しておきながら、他方で「環境にやさしい企業」のイメージを売り込むのは偽善というものだ。本当に環境を大事にしているのなら、訴訟なんかやめて自社でも詰め替えインクを売り出せばいい。特に日本経団連の会長社が、こんないかがわしいキャンペーンを張るのは、財界の品位を疑われてもしょうがない。