私は、消費者行政というのは、行政の中心を産業振興から競争政策に変えることだと思っていたが、自民党消費者問題調査会の事務局長である後藤田正純氏にとっては、規制強化のことらしい。彼はこういう:
今の政治に必要なのは、行き過ぎた市場主義を是正し、健全な資本主義が根付く様々な手立てを講じること。企業と消費者の関係で言えば、明らかに情報の格差がある。例えば家族が欠陥製品を購入して何らかの被害に遭った時、その製品のどこに原因があるのか、消費者は知ることはできない。
これは「行き過ぎた市場主義」とは何の関係もなく、情報の非対称性とよばれるありふれた問題だ。1990年代に慶応の商学部で経済学の授業を受けた彼は、必ず習っているはずだ。それとも、彼は経済学を勉強しなかったのだろうか。
力の格差もある。貸金業の問題では、カネを貸す側と借りる側では、圧倒的に借りる側の立場が弱い。論拠のはっきりしない割高な金利を押しつけられても、それに抗うことは難しい。
「割高な金利を押しつけられ」たら、借りなければよい。事実、彼が強行した貸金業法の改正で消費者金融の貸付残高は半減し、中小の金融業者は壊滅した。借りる先を失った債務者の2割は自己破産するという調査もある。借りられない消費者は「ネオ闇金」とよばれる業者に流れ、多重債務問題はかえって深刻化している。ところが上限金利規制を批判した経済学者を、後藤田氏は三流経済学者と非難し、「サブプライム問題というのは日本で言うサラ金問題だ」という。サラ金は無担保金融、サブプライムは不動産担保金融であり、しかもサブプライムはノンリコースローンだから多重債務問題は起こらない。どうせ彼は、その違いも知らないのだろう。そして問題の消費者行政の方針を、彼はこう語る:
今の日本で手っ取り早い景気対策は、公正取引委員会が不公正取引をもっと厳格に審査して、廉価販売などの流通を規制することだ。廉価販売を規制すれば、ものの値段は上がる。これは一時的には、消費者に不利かもしれない。しかし、消費者が安いものを買うのは、家計が苦しいから。家計が苦しいのは、中小企業が大企業からダンピングさせられたり、過当競争で会社の業績が落ち込み、人件費を削られるから。家計が苦しいから、安くしないと売れない。こうしたデフレスパイラルに陥ったままにしないためにも、政府が適切な価格を導く政策を上手にしないといけない。
この文章は、何度読んでも意味がわからない。たとえば公取委が、ドンキホーテの「廉価販売」を禁止し、すべて300円以上で売るように規制したとすると、「家計の苦しい消費者」はドンキホーテに行かなくなり、ドンキホーテの経営は悪化し、従業員はリストラされるだろう。そんな規制は、消費者にも企業にも有害無益だ。どうやら後藤田氏は、価格を(規制で)引き上げたら、需要は減らないで売り上げが増えると思い込んでいるようだ。これはサラ金の金利を規制で引き下げたら、資金供給が減らないで金利だけが下がる、と彼が主張していたのと同じ錯覚だ。

こんな幼稚な議論を消費者行政の責任者が公言し、消費者行政を規制強化と取り違えるとは、とんでもない話だ。後藤田氏には、「三流経済学者」を罵倒する前に『落ちこぼれでもわかる経済学』を読むことをおすすめしたい。