きょう開かれた電波監理審議会では、2.5GHz帯についての諮問(事業者選定)が行なわれるといわれていたが、見送られたようだ。きょう答申の出されたIPモバイルの事件にみられるように、総務省の審査は失敗続きだ。これで空いた2GHz帯も含めて、仕切りなおしてはどうか。

さらに問題なのは、2011年の「アナログ放送終了」にともなって空くことになっているVHF帯と、UHF帯の整理で空く700MHz帯だ。総務省では業者の「研究会」が行なわれており、VHF帯では放送業界が「われわれの帯域だ」と主張してISDB-T(ワンセグ)に割り当てることを主張し、700MHz帯はMediaFLOに割り当てられる方向だ。しかしISDB-Tは世界から孤立した「日の丸規格」であり、MediaFLOについてはKDDIとソフトバンクの足並みが乱れてサービス開始が遅れている。

何より問題なのは、研究会という名目で、水面下の「一本化工作」が行なわれていることだ。公的資産(総額で数兆円規模)の譲渡について、このように談合が行なわれるのは、独禁法にふれる疑いがある。特に700MHz帯は、アメリカでもグーグルなどに割り当てられ、まったく新しい技術が出てくることも予想される。たとえ今、最善の技術を選択したとしても、市場や技術は急速に変化しており、5年先、10年先に何が正解になるかはだれにもわからない。かつてPDCという日の丸規格を選んだ結果、日本の携帯電話業界が世界の孤児になった失敗を繰り返してはならない。

今のように技術が急速に変化しているときは、なるべくオプションを広げることが重要だ。PCやインターネットが出てきたとき、「何に使うのかわからない」といわれたが、それが成功したのは、何にでも使える汎用技術だったからだ。その意味で、アメリカでも日本でも「オープン化」が議論されているのは重要な変化である。サービス層とインフラ層を水平分離し、帯域はインフラ卸としてキャリアに割り当て、サービスはMVNOに自由に参入させることが合理的である。

だから美人コンテストでも技術は審査せず、帯域をどれだけMVNOに開放するかといった技術中立的な基準で審査を行なうべきだ。また将来ほかの技術が有利になった場合には変更できるオプションも与えることが望ましい。もちろん一番いいのは、用途も技術も特定せず、オークションで帯域だけを割り当てる帯域免許である。この場合、電波を転売する二次市場も整備する必要がある。経済財政諮問会議で日本経団連の御手洗会長などが出した意見書でも、「電波の二次取引市場の創設」を提言している。これは当然、一次市場=周波数オークションが前提だ。

失敗続きの電波行政のおかげで、日本の携帯電話メーカーは11社あわせて世界市場シェアの9%と、絶滅の淵に立っている。その危機感は総務省も共有しているようだが、それをICT国際競争力会議という時代錯誤の産業政策で挽回しようとしている。けさの日経新聞にも、それに翼賛するPR特集が出ているが、これは20年前に通産省が犯した失敗の繰り返しになる。行政が技術を選択して「官民の総力を結集」するのではなく、グローバル市場での競争によって最適な技術と企業が選ばれるような制度設計が必要である。

今回、2.5GHz帯の決定を先送りしたのは賢明な選択だ。総務省はこの際、2GHz帯や1.7GHz帯だけでなく、VHF帯や700MHz帯も含めた総合的な戦略を建て直し、オークションを含めた電波政策の抜本的な改革を考えるべきだ。これだけ大幅な電波の再編のチャンスはもう二度と来ない。