ドルが109円台になり、日経平均も一時15000円を割った。Economist誌によれば、格下げされそうなCDOの総額は、全世界で1兆ドルにのぼるというから、損失はまだ拡大しそうだ。もはや今回の事態を「サブプライム問題」とよぶのはミスリーディングで、1997~8年のようなグローバルな金融危機に発展するおそれが強い。

本書は、今回の騒動をその初期から追ってきたアナリストが分析したものだ。発端は、2000年のITバブル崩壊後の不況で、FRBが(日本の轍を踏むまいと)急激な利下げを行なったことだ。これによってIT不況の拡大は防げたが、過剰流動性が不動産に向かうという日本の80年代後半(円高不況で日銀が金融を緩和した)と似た状況が生じた。特に米政府が景気刺激策として住宅減税を行なって住宅の取得を奨励したため、株式から不動産への大規模な資金移動が起こり、全米の住宅平均価格は、2000年から2006年にかけて2倍を超える異常な値上がりを示した。

ただ日本の不動産バブルと違う点は、アメリカの住宅ローンは単純な融資ではなく、銀行が貸出債権をまとめて証券化して売却することだ。これによって銀行は、利益を得るとともに貸し倒れリスクをまぬがれるので、債務者を厳密に審査するインセンティブがなくなる。低所得者でも、返済が滞れば担保になっている住宅を競売にかければ、不動産価格がどんどん上がっているので回収できる。したがって返済能力におかまいなしに、担保価値の90%といった高額のローンを組ませる――という20年前の日本とよく似た状況が出現したのだ。

さらに、この債権を買った証券会社は、他の資産と組み合わせてABSとして市場で売る。このとき、その信用の基準となるのが格付けだが、きのうの記事でも書いたように、ここに落とし穴があった。ABSには多くの種類の資産が組み込まれているので、全部が債務不履行になる確率は低いため、格付け機関はリスクが分散されていればAAAという最高ランクをつけた。このためABSの格付けは、ほぼ半分がAAAという異常な分布になった。企業の格付けでは、AAAというのは1~2%である。

投資家が証券を買うとき、特に年金基金などのリスクをきらう機関投資家は、AAAの証券を買うことが多い。しかし今回のように不良資産も優良資産もいっせいに売り込まれると、いくら資産を分散していても、すべて値下がりしてしまう。欧州委員会は、アメリカ資本の格付け機関を非難し、アメリカでも議会が格付け機関を規制するよう主張し、SECも6月にガイドラインをつくった。しかし格付けはあくまでも参考で、投資家が自己責任でリスクをとるのが資本主義の原則だ。基本的には、悪質な格付け機関を市場で淘汰することで解決するしかないだろう。

今回の騒動の間接的な原因といわれているのが、BISによる自己資本規制だ。これは過剰融資を防ぐため、銀行の自己資本を資産(融資残高)の一定比率以上とするよう定めたものだが、貸出債権を証券化して売ってしまうと資産は増えないので規制をのがれることができ、銀行が不動産融資を証券化するインセンティブを強めた。

このバブルの構造は、20年前の日本と似ているが、金融技術の発達によって債権・債務関係が非常に入り組んでいるため、簡単に清算できず、損失の評価もむずかしい。これが「ナイトの不確実性」を強め、世界的にドル資産からの逃避が起こり、今回のドル暴落をまねいたわけだ。そして世界経済を牽引してきたアメリカの購買力が、この逆資産効果で萎縮すると、その影響は全世界に波及する。またドルが信任を失うと、その基軸通貨としての地位もユーロに移行してゆくかもしれない。

追記:本書で紹介されている、サブプライムについてのアメリカの住宅都市開発庁の報告書を読むと、日本のサラ金や、かつて悪徳不動産業者と組んだ銀行の「押し売り融資」の手口とよく似ている。彼らも日本に学んだのかもしれない。