村上ファンド事件で、被告が一審で有罪になったのは予想どおりだったが、その判決には驚いた。「被告の『ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売る』という徹底した利益至上主義には、慄然とする」という判決文に慄然としたのは、私だけではなかったようだ。

安く買って高く売ることを否定したら資本主義は成り立たない、という中学生なみの常識もない裁判官が、インサイダー取引の要件を「[株式大量取得の]実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題とならない」としたおかげで、磯崎さんもいうように、今後は機関投資家のみならず、会社の役員による株式の売買にも大きなリスクがともなうことになった。

こういう低レベルの裁判官は、日本の資本主義のレベルの低さの象徴である。本書は、そういう「不思議の国」の奇怪な企業買収の実態を見せてくれる。その最たるものが、当ブログでも書いた「三角合併」をめぐる財界の大騒ぎだ。彼らが、まるで黒船が来襲して日本の企業がつぶされるかのようなキャンペーンを張った割には、5月の解禁後も、外資による三角合併は1件もない。

それだけではない。日本の企業買収には、企業価値の算定もしないで買収したり、TOBで安いほうに売ったり、不可解な事例に事欠かない。というよりは、まともな企業買収がほとんどない。それなのに多くの企業が「買収防衛策」だけは早々と準備し、投資ファンドをハゲタカ呼ばわりする。本書も指摘するように、これは1980年代のアメリカとほとんど同じ光景だ。

その後、アメリカはどうなったか。非効率なコングロマリットが解体され、資本や人的資源がベンチャー企業に移転されて、見事に立ち直った。アメリカ経済が復活した要因はITだけではなく、企業の解体・再生による資本主義の活性化にあったのだ。その表面をみて「IT革命」だけをつまみ食いしても、効果は上がらない。企業価値を守ると称してみずからの地位を守ることに汲々としている経営陣を追放する「戦争」が必要なのだ。