おなじみロンボルグが、地球温暖化について論じた本。基本的には、前著"Skeptical Environmentalist"の温暖化についてのダイジェストみたいなものなので、前著を読んだ人は読む必要はないが、この大著を読むのはしんどいとか、温暖化以外には関心がないという人にはいいだろう。

彼が強調するのは、地球温暖化があまりにも政治的に利用されているということだ。たしかに温暖化は起こっているし、その原因の一部が人間の活動だということは間違いないが、同様のグローバルな問題は他にもあり、そのいくつかは温暖化より明らかに深刻で緊急だ。それなのに、サミットなどで温暖化問題だけが「人類の課題」として強調されるのは、それがどこの国にとっても政治的に安全で、大衆受けする問題だからである。

京都議定書を実施するコストの1/3で、2.29億人が餓死するのを防ぐことができ、350万人がエイズで死亡するのを防止でき、マラリアを絶滅できる。農産物の輸出補助金を廃止するだけでも、途上国に2.4兆ドルの援助を行なうのと同じ効果がある。京都議定書が完全実施された場合にもこれらの問題に間接的な効果はあるが、たとえば餓死については1/100以下の効果しかない。

奇妙なのは、地球温暖化よりも明らかに費用対効果の高い飢餓や感染症などの問題が、なぜサミットなどの場でほとんど議論されないのかということだ。著者は、それをメディアのバイアスと政治家のポピュリズムに帰している。アフリカの子供が飢えているとかマラリアにかかっているとかいう話は、ニュースとして新味がないし、自分たちに関係ない。それに比べて、地球温暖化は「近代文明を問い直す」とかなんとかサロン的な話題になりやすいcoolな問題だ。

要するに「大事な問題」より「おもしろい問題」が大きく報じられるメディアのバイアスが政治的なアジェンダを決めてしまい、数兆ドルの効果のはっきりしない公的投資が全世界で行われようとしているのだ。これは当ブログでも何度か指摘したように、人々が感情で動く動物であるかぎり避けられないことではあるが、その種の愚挙としては史上最大の規模だろう。

追記:当ブログでも紹介した日本版ロンボルグ(?)武田邦彦氏の続編も出た。中身はロンボルグの本と大差ないが、こういう本が1冊でも出ることは、世の中の「頭を冷やす」のにはいいだろう。