副題は「菊の玉座の囚われ人」だが、なぜか背表紙にしか書いてない。いったん講談社から訳本が出ることになっていたが、宮内庁や外務省が抗議したため、土壇場で出版中止になった、いわくつきの本の完訳版だ。

・・・というから、どぎついスキャンダルが出ているのかと思えば、内容は日本人ならだれでも知っている出来事を淡々と綴ったもの。しいて違いをさがせば、父親(小和田恒氏)も本人も含めて結婚を拒否し、小和田家が結婚を祝福していなかったことがはっきり書かれていること、それに雅子様が「鬱病」であることは疑いないという複数の精神科医の話が書かれていること、また将来の選択肢の一つとして「皇室からの離脱」があげられていることぐらいか。

これに対して今年2月、宮内庁が書簡で異例の抗議をした。しかし「各ページに間違いがあるのではないか」と書いている割には、具体的な間違いの指摘は1ヶ所しかない。たしかに、そこで指摘されている「天皇家がハンセン病のような論議を呼ぶ行事にはかかわらない」という記述は誤りで、今度の訳本でも訂正されている。しかし、あとは天皇家の公務がいかに重要であるかを繰り返しているだけで、これは事実ではなく見解の相違にすぎない。

原著の記述を出版社が訳本で百数十ヶ所も削除しようとし、著者がそれに同意しなかったために出版できなかった、というのが表向きの経緯だが、これは明らかに宮内庁などの検閲だろう。しかし、どこにそんなに多くの問題があるのかわからない。小ネタとしては、たとえば秋篠宮が「情事を持った女性」が少なくとも2人いて、川嶋家がその情事の結果について「責任を取るように要求した」ため、皇太子よりも先に結婚することになった、というような日本のメディアに出ない(しかし世の中では知られた)エピソードもあるが、全体としては紳士的に書かれている。

一人の女性が宮内庁の「囚われ人」となって鬱病にかかり、それも外出もできない重い症状になっているというのに、周囲が心配するのは皇室の面子や跡継ぎのことばかり。鬱病が自殺の最大の原因だということはよく知られている。これは明白な人権侵害であり、場合によっては人命にもかかわる。メディアは宮内庁の異常な体質について客観的に報道すべきだし、政府はまじめに対策を考えるべきだ。その選択肢には「皇室からの離脱」も当然、含まれよう。