量子力学とか宇宙論の本がたくさん出ているが、サイエンス・ライターの類が書いたのはやめたほうがいい。この分野では、議論はすべて実験データと数式で進められるので、そういう1次情報を理解していない素人がわかりやすい「イメージ」を書いたものは、信用できない。

では専門家が書いたものがいいかというと、必ずしもそうはいかない。リサ・ランドール『ワープする宇宙』は、前半は普通の素粒子物理学の歴史や解説だが、著者の本領である「余剰次元」の話はさっぱりわからなかった。著者は、いろいろな例をあげてわかりやすく説明する努力はしているし、翻訳もこなれているのだが、そもそも実験や数式で証明するしかない学説を図で解説してもらっても、それが正しいのかどうかはわからないし、余分な次元がかりにあるとして、so what?

その点で本書は、前に紹介したサスキンド『宇宙のランドスケープ』と同じく、人間原理をテーマにしているので、少なくとも問題は理解できる。サスキンドの本題はひも理論なので、そっちは??の部分も多いが、本書はインフレーション理論以来の宇宙論がテーマなので、ずっとわかりやすい。著者は世界の第一人者なので、まだ未解決の話も出ており、素人が中身を理解できるわけではないが、「多世界宇宙」というSFみたいな話が現代の物理学の主流になりつつあるという奇妙な状況はわかる。

それを理解しても、明日の生活に何の役に立つわけでもないが、宇宙が10500もある中で、おそらく生物が存在しうるのはこのたった一つで、しかもその(今後も含めて)数百億年の歴史の中で、生物が存在するのはほんの一瞬でしかない、という理論が21世紀の物理学の通説になるとすると、私などはパスカルの有名な言葉を思い出してしまう。
この無限の宇宙の永遠の沈黙が、私をおののかせる。――『パンセ』