きのう発売の『週刊エコノミスト』に、私の記事が出ている。「NGNプロジェクト『再統合』『再独占』に向けた”トロイの木馬”か」というどぎついタイトルは、編集者が勝手につけたもので、私は最終ゲラも見ていない。彼は私の原稿を改竄したので、変な誤植がある。正誤訂正をかねて、補足しておく。

特にわかりにくいのは、2000年の接続料をめぐる問題だろう。1999年の日米交渉で、USTRが対日要望書の最重点項目として出してきたのは、なぜか国内の長距離電話の接続料の値下げだった。当初の要求は40%以上という大幅なものだったが、これに対してNTTと郵政省(当時)は激しく反発した。

その後、アメリカ側は「3年間で22.5%」と要求を下げてきたが、タイムリミットの2000年3月末を越しても交渉はまとまらず、7月の九州・沖縄サミットの直前までもつれこんだ。ここで野中広務・自民党幹事長(当時)がUSTRと交渉して、下げ幅を「当初2年間で20%」として事実上、アメリカ側の要求をのむ代わり、値下げの原資を出すためにNTTには東西会社の合併などの規制緩和を行なうという政治決着にこぎつけた。

この政治決着にそって、電気通信審議会に「IT競争政策特別部会」が設けられ、NTT法の改正(再々編)を議論することになった。ところが、総務省や与野党などに「再々編を議論するなら、むしろ持株会社を廃止し、民営化のときの臨調方針の通り、各事業会社を完全に資本分離すべきだ」という完全分割案が出てきた。このため、2000年9月に開かれたIT部会の第1回公聴会で、NTTの宮津純一郎社長(当時)は「再々編の話は忘れてほしい」と発言し、委員を驚かせた。

以来、NTT経営陣にとって「再々編の話を持ち出すと、かえって完全分割論を再燃させてヤブヘビになる」(*)というトラウマが残り、和田紀夫氏が02年に社長に就任してからは、再々編論議は封印されてしまったのである。

この問題を再燃させたのが、2005年末に竹中平蔵総務相(当時)が作った通信・放送懇談会だった。当初はアクセス網を機能分離する案が検討されたが、途中からこれに加えて、完全分割案が出てきた。つまりアクセス網を水平分離した上、持株と東西とコムを垂直にもバラバラにしようというのだ。

NTTはこれに激しく反発し、自民党通信・放送産業高度化小委員長(当時)の片山虎之助氏に働きかけた。結果的に、NTTの経営形態については「2010年の時点で検討を行う」との表現で、通信・放送懇の結論はすべて先送りされた。その竹中氏の唯一の置き土産が、2010年という再検討のスケジュールだった。

この「2000年のトラウマ」はまだNTT社内に残り、少なくとも竹中氏の影響力が残っているうちは再々編論議は封じ込めようと経営陣は考えているようだ。しかし竹中氏は、『エコノミスト』誌のインタビューでは、完全分割論を引っ込めたようにも見える。総務省でも、今度の異動で「完全分割派」はほとんど姿を消した。最近出された「情報通信法」(仮称)は、通信・放送といった縦割り規制からレイヤー別規制(**)への転換を提言している。

また「完全分割」を主張している他社も、「IP時代に長距離会社と市内会社を分離するなんてナンセンスだ」(ある競合他社幹部)ということは承知のうえで、いわば交渉上の駆け引きに使っているだけだ。もうNTT解体論の亡霊も、姿を消したのではないか。三浦新社長の最大の経営課題は、この2010年問題である。そろそろトラウマは忘れて、NTT側からレイヤー別の再々編を提案するぐらいの大胆なリーダーシップを見せてはどうだろうか。

ただ、まとめ役だった片山氏が落選した影響は大きい。かつての接続料問題のときも、最後は野中氏の政治力でまとめたのだが、今の自民党にはそういう人材がいない。菅総務相が改造で交代するのは確実として、後任にどれぐらいの実力者がなるかが一つの注目点だが、レイムダックになった安倍政権では、NTT改革まで手を広げるのは無理かもしれない。

(*)この部分を編集者が改竄したため、記事では「東西の合併と引き換えに完全分割をのまされるかもしれない」という意味不明の表現になっている。

(**)この部分も、記事では編集者が勝手に「事業構造別の規制」と直したので、意味不明になっている。