けさの朝日新聞に、アナログ放送が止まる「2011年7月24日まで、あと4年」という記事が出ている。例によって私が、否定的なコメントをする役だ。いつもこういう所に出てくるので、テレビ局に憎まれるのだが、他にいないのだろうか。ただ、いつも同じことばかりコメントするのもいかがなものかと思うので、よく質問される「地デジのFAQ」をまとめておこう。

Q. なぜ需要予測もはっきりしないまま、あわてて地デジを始めたのか?

A. アメリカが1998年にデジタル放送を始めたことから、「家電王国の日本がデジタルで遅れをとるわけには行かない」という郵政省の面子で始めた。家電産業の優位を守るという産業政策の側面が強く、消費者はカラー化のときのようにHDTVに飛びつくと考えていた。

Q. 業界は反対しなかったのか?

A. NHKはHDTV化を進めたかったので反対しなかったが、広告収入が増えないのに巨額の設備投資がかかる民放連は反対した。しかし郵政省が「国の助成金を、郵政省で何とかとるように考えます」と損失補填を約束したのでOKした、と氏家元民放連会長が証言している。

Q. 本当に4年後、停波できるのか?

A. どんなに楽観的に予測しても、2011年の段階で最低3000万台のアナログテレビが残る。しかも、この段階で残っている視聴者は年金生活者や独居老人などの「社会的弱者」で、テレビが災害情報などの唯一のライフラインになっている人が多いだろう。そういう人のテレビの電波を政府が無理やり止めるという決定が下せるだろうか。

Q. 停波の延長は避けられないということか?

A. 総務省も、すでにNHKや民放連と話し合っている。来年、次の免許更新があるので、そのとき一定の見通しが出るだろう。さしあたり1回(3年)延期して様子をみるといった政策がとられるのではないか。ただ延長するには、電波法の改正が必要なので、容易ではない。

Q. さらに国費投入はあるか?

A. すでに「難視聴対策」と称して100億円が支出されている。生活保護世帯には国費でチューナーを支給するといった案もあるようだが、放送を見るにはアンテナなど1世帯あたり3万円ぐらいかかる。生活保護を受けているのは100万世帯程度なので、これだけでも300億円かかるが、残りはどうするのか。また、そういう案が表に出ると買い控えが起こるので、今のところ政府は「無条件に止める」という公式見解を変えていない。

Q. なぜ無条件に2011年に止めると法律で決めたのか?

A. 郵政省は、もとは「85%がデジタルに移行した段階で止める」といった案を考えていた。しかしアナアナ変換に国費投入が必要になったため、2001年度予算で要求したところ、大蔵省に「民放の私有財産である中継局に税金を投入することは認められない。国民にとっての利益がない」と拒否された。そこで郵政省は「デジタル(UHF帯)に完全移行したら、VHF帯のアナログ放送を止めて移動体通信などに使えるので、電波の有効利用という国民的な利益がある」という理屈をひねり出した。これに対して大蔵省が「そんな口約束では、いつ止めるかわからない。何日までに必ず止めるという担保を出せ」と求めたため、そのときの電波法改正から10年後という日付を法律に書き込む異例の措置をとったのである。

要するに、最初から最後まで役所とテレビ局と電機メーカーの都合だけで計画を進めてきて、土壇場になって消費者がついてこないことに気づいてあたふたしている、という日本の産業政策の失敗の典型だ。くわしいことは、拙著『電波利権』をどうぞ。