朝日新聞東京本社編集局長 外岡秀俊様

当ブログの4月1日付の記事を読んでいただいたそうで、ありがとうございます。実は、私はあなたと同い年で大学も同じで、あなたの1年後に朝日新聞から内定をもらいました。それを断ったとき、人事担当者に「去年の外岡君は文芸賞をもらったが、当社に入社した。自由に仕事ができる」と説得されたことを覚えています。あのとき内定を受けていれば、あなたの1年後輩になったわけです。

朝日のような「進歩派」はNHKにも多く、世間で思われているほどNHKは(政治的には)保守的なメディアではありません。特に毎年8月になると、終戦記念番組で反戦平和を訴えるのが定番でした。私も1991年に終戦企画を担当し、取材班は国内と韓国で1ヶ月にわたって「強制連行」の取材をしました。当時のわれわれも「軍が朝鮮人の首に縄をつけて引っ張ってきた」という証言をさがしたのです。

しかしそういう証言は、数十人の男女の中で1人もなく、出てきたのは「高給につられて出稼ぎに行ったら、タコ部屋に入れられて逃げられなかった」といった話ばかりでした。ただし慰安婦については、初めて金学順という老婆が実名で出てきて、大きなニュースになりました。このときNHKの番組で彼女は「親にキーセンに売られ、養父に連れられて慰安所に行った」と証言しました。

ところがその年の12月に起こされた国家賠償訴訟では、彼女は軍に「強制連行」されたことにされました。そして、この訴訟を応援するかのように「国家の関与を証明」したのが、朝日新聞の1992年1月11日の記事です。これについては4月1日の記事に書いたとおり誤報だったことは明白であり、「歴史認識」の検証を掲げる朝日新聞が、この問題の検証を避け、社説で「枝葉の問題だ」などと逃げているのは、誠実な態度とは思われません。

国内では、この問題についての事実関係は、ほぼ決着がついたと思います。先日の意見広告でもいうように、売春を強制するよう命じた軍の文書は1枚もありません。慰安婦の「証言」がいくらあろうと、軍命の証拠にはなりません。気の毒な公娼の身の上話にすぎない。これは枝葉の問題ではありません。国家賠償訴訟においては、「公権力の行使」があったかどうかは最大の争点です。

きのう米下院外交委で、慰安婦非難決議が可決されました。このままでは本会議でも、可決される可能性が高いようです。朝日新聞は、この決議への論評を避けていますが、「日本軍が慰安婦を性奴隷にして売春を強制し、強姦や堕胎や自殺に至らしめた20世紀最大の人身売買」を非難するこの決議に賛成するのですか。戦後60年以上たって、こんな荒唐無稽な決議が出てくる責任の一端が朝日新聞にあることを認識しておられるでしょうか。

政府があきらめてしまった以上、こうした海外の誤解を是正できるのは、朝日新聞だけです。朝日の若い記者にも私の意見に賛成する人が多く、「慰安婦問題は一度、けじめをつけたほうがいい」と言っています。あなたも私も、もう贖罪意識やナショナリズムにこだわる世代ではないでしょう。これまでの行きがかりを捨て、この決議案が本会議で採決される前に、慰安婦問題についての歴史的な事実を(社説ではなく)記事で実証的に検証してはいかがでしょうか。

敬具