著者は、日経新聞の乱脈経営について内部告発し、懲戒解雇処分を受けたが裁判で闘い、最終的には和解して復職した。しかし本書の主要なテーマは日経ではなく、「特殊指定」騒ぎなどにみられる新聞社の独善的な体質だ。これは当ブログでも指摘したことだが、現役の新聞記者が公然と批判したのは初めてだろう。同様の(OBによる)内部告発としては、『新聞社―破綻したビジネスモデル』(新潮新書)があるが、こっちは現在の宅配制度が行き詰まっているとしながら「再販制度は必要だ」としているのにあきれた。

現在の新聞社の体制は、戦時中にできた「メディアの1940年体制」による言論統制システムを継承している。さらに戦後の占領体制のもとでできた「日刊新聞特例法」による株式の譲渡制限や、その後に行なわれた独禁法の適用除外(再販)や特殊指定によって、新聞を市場メカニズムから除外するシステムができてしまった。著者は、それぞれの制度の起源をさぐり、それが「言論の多様性を守る」とかいう新聞協会の建て前とは無関係だったことを明らかにする。

何より問題なのは、著者もいうように、業界の方針に反する意見を封殺し、「両論併記」さえ許さない異常な言論統制だ。しかも新聞だけでなく、再販を批判した鶴田俊正氏や三輪芳朗氏の本は版元に出版を拒否された(その唯一の例外が本書の版元、東洋経済新報社)。この点でも、日本の新聞は戦時中の検閲体制を残しているのだ。

しかし状況は変わった。新聞や出版で言論を弾圧しても、ウェブ上の言論は量的にはそれをはるかに上回る。グーグルで「特殊指定」を検索すれば、出てくるサイトの圧倒的多数は新聞協会を批判するものだ。そしてインターネットは、遅かれ早かれ新聞を呑み込むだろう。本書は、そのへんのビジネス的な分析が弱い。

追記:コメントで教えてもらったが、日経新聞は本書の広告掲載を拒否したようだ。まぁ日経はジャーナリズムじゃなくて「情報サービス会社」だそうだから、中立・公正なんて知ったことじゃないのだろう。