著者は、いい意味でも悪い意味でも教科書的な経済学者である。1980年代後半に「現在の地価はバブルだ」と断定した経済学者は、彼だけだった。バブルが崩壊した後も、私の担当した番組で政府の景気対策について「財政政策は景気に中立だ」と発言して、キャスターが絶句したことがあった(これはマンデル=フレミング・モデルの話)。

本書も、かたくななまでに(ミクロ経済学の)教科書的だ。たとえば90年代のデフレについては、輸入物価の下落や技術革新による「よいデフレ」だとする。マクロ的要因を無視し、金融緩和は有害無益だという著者の立場は「構造改革原理主義」とも呼ばれる。小泉政権の経済政策についての評価も、世間の「市場原理主義」という批判とは逆に、異常な金融緩和で古い企業を延命したとする。

したがって著者の日本経済についての処方箋も、ミクロの構造改革だけを徹底するものだ。その主眼は、タイトルにもあるように資本自由化によって対内直接投資を増やし、企業買収によって日本企業の資本効率を高めることにある。また製造業を捨て、アイルランドのようにサービス業に重点を移すべきだという。賃金が低下しているのは「要素価格均等化」のためで、格差を是正するには国際競争力を高めるしかない。

本書は、日本経済の問題を教科書的にすっきり理解するにはいいが、意外性はなく、具体性に乏しい。日本企業が改革によって「コモディティ化」する製造業を脱却し、中国やインドにはできない付加価値の高いサービス業に移行すべきだというのはその通りだが、それは具体的にどういうビジネスなのだろうか。サービス業で1億人が食っていけるのだろうか。金融でもITでも、日本からグローバル企業が生まれる様子はないのだが・・・