9bcbc95b.jpg元毎日新聞記者の西山太吉氏が国を相手どって起こした「沖縄密約訴訟」は、一審で原告敗訴に終わった。しかし審理の過程で、吉野文六・外務省元アメリカ局長が密約の存在を認めるなど、事実関係は西山氏の報道した通りであることが判明した。

1972年に彼が報道したのは、400万ドルの土地復元費用を日本政府が負担する密約だったが、本書ではその後、明らかになったアメリカ側の条約文書をもとに、VOA移転費用など合計2000万ドルを日本側が肩代わりする密約があったことを明らかにしている。さらに沖縄返還協定に書かれた3億2000万ドル以外に、基地の移転費用6500万ドルや労務費3000万ドルなど、別の「秘密枠」もあったとされている。

吉野氏は「3億2000万ドルだって、核の撤去費用などはもともと積算根拠がない、いわばつかみ金。あんなに金がかかるわけがない。本当の内訳なんて誰も知らないですよ」と証言している。密約は、日本が米軍に「ただ乗り」することを許さないアメリカ政府の圧力と、無償返還という「きれいごと」の矛盾を糊塗するためだったという。

毎日新聞のスクープに対して、検察は西山氏が外務省の職員と「情を通じて」機密を漏洩させたとして彼を逮捕した。その後も、アメリカ側資料や当事者(吉野氏が密約に署名した)の証言が出てきても、外務省は密約の存在を否定し続けている。文書も加害者の証言もない慰安婦問題で、首相が謝罪したのとは対照的だ。この国の政府は、外圧がないと動かないのだろうか。

本書を読んで暗澹たる気分になるのは、この明白な国家公務員法違反(国会での虚偽答弁)を、野党もメディアも追及しないことだ。メディアが「第一権力」だなんていうけれど、官僚がすべての権力の上に君臨する「官治国家」の構造は変わっていないのだ。このように国民をあざむいて進められる「米軍再編」って何なのか。