日経ビジネス・オンラインの後編の記事に読者からツッコミが入って、編集部が訂正した。最初のバージョンでは「(『あるある』の)番組制作費3200万円のうち、下請け、孫請けのところには860万円しか支払われていなかった」と書かれていたが、この表現はおかしい(私もウェブに出てから気づいた)。

関西テレビの調査報告書(p.109~)によれば、約3200万円の番組制作費のうち、関テレが「プロデューサー費」として55万円とり、3100万円余を下請けの日本テレワークが取り、孫請けのアジトのVTR制作費が860万円ということになっている。したがって「番組制作費3200万円のうち、孫請けのところには860万円しか支払われていなかった」と書くのが正しい。

しかし、この調査報告書の数字はおかしい。局側の取り分が、わずか55万円ということは考えにくい。『文藝春秋』4月号の記事によれば、実態は次のようだ:
花王が電通に渡した額は、推定で年間で50数億円。特番を除く1本当たり単価に直せば1億円にのぼる。そこから電通は15%を管理費としてチャージし、さらに電波料と呼ばれる各局への配布金を引く。[・・・]関西テレビに渡るのは1本当たり単価で3700万円程度。そこから日本テレワークに渡るのが単価3200万円程度。ここからスタジオゲスト出演料、美術費さらにはスタジオ収録料や最終編集費などが引かれて各回を担当する製作プロダクションに渡るのが単価860 万円程度。当初の1億円の9%弱になっているという。
制作費が、あとから出た調査報告書と符合することから、この推定は信頼できる。これによれば、1本1億円から電通の取り分を引いた8500万円のうち、4800万円が電波料として地方局に取られ、関テレ自身も500万円の電波料をとる。調査報告書では、調査対象を制作費にしぼっているため、番組経費の大部分が電波利権に食われているという病的な状況が、さすがの元鬼検事にも見抜けなかったわけだ。したがって「大半のお金は放送局が中間搾取していて、現場のクリエーターには回っていなかった」という私の主張は正しい。

以前の記事にも「この電波料って何ですか?」というコメントがついていたが、これは地方局に払う「補助金」である。地方局の経営は、ローカル広告だけでは成り立たないので、系列のキー局や関テレなどの制作側が補填するのだ。地方局は、タダでもらった電波を又貸しし、商品(番組)を供給してもらう上に金までもらえるという、世界一楽な商売である。その実態はよくわからなかったが、この文春の記事が正しいとすれば、「あるある」だけで年間20億円以上にのぼり、番組経費のほぼ半分を占める。つまり、何もしていない地方局の取り分が最大なのだ

さらに異様なのは、番組制作費のうちVTR制作費が860万円しかなく、残りの2300万円が「スタジオ経費」に消えていることだ。テレワークのマージンを引くとしても、この大部分は出演料だと思われるが、局アナを除けば5人程度の出演者のギャラとしては、いかにも大きい。最高と推定される堺正章の出演料は、おそらく500万円以上だろう。若いタレントでも、100万円ぐらいが相場である。

このように情報よりもタレントを重視するのは、局側としては当然だ。視聴率を決めるのは情報量ではなく、顔なじみのタレントが出ているかどうかで、「数字の取れる」タレントは10人程度に限られているからだ。これは経済学でよく知られている「一人勝ち」現象の一種である。人気タレントは、メディアに露出することによってさらに人気が出るという「ネットワーク外部性」があるので、一部のタレントに需要が集中して出演料が跳ね上がる。

結果として、タレントが30分ぐらいしゃべっただけで500万円以上もらう一方、地を這うような取材をした孫請けプロダクションのディレクターの年収は300万円そこそこという、究極の「格差社会」がテレビ業界なのである。そして彼は、問題が起きると全責任を負わされて、業界から追放される・・・