慰安婦問題について4月3日に米下院に提出された下院事務局の報告書が、ウェブに出ている。これが現在までのところ、この問題についての米国政府の唯一の公式文書だが、その内容はおよそ政府の報告書とは信じられない英語の2次資料の切り抜き帳だ。

細かいことは3/28の記事のコメント欄に書いたが、その抄訳を引用すると、最大の争点である日本軍の責任については以下のように結論している(一部訂正):
慰安婦制度の「募集」という要素に対する彼[安倍首相]の強調は、(移動、設立、慰安所の認可、慰安所における慰安婦の管理といった)日本軍が深い役割を持っていた慰安婦制度のほかの側面を矮小化している。募集のほとんどは、特に韓国においては、軍によって直接実行されていたのではないかもしれない。しかし安倍政権が募集の際の軍の強制に関する全ての証拠を否定するのは、日本政府が調査した1992-1993年の報告書における元慰安婦の証言に反するとともに、Yuki Tanaka "Japan's Comfort Women"におけるアジア各国とオランダの400人以上の慰安婦のうち200人近い者の証言にも反している。
まず明らかな事実誤認は、ここで「日本政府が調査した報告書」とされている内閣官房の報告書には、元慰安婦の証言は出ていないということだ。もうひとつの根拠である"Japan's Comfort Women"も、田中利幸という共産党系の研究者が支援団体の証言集を英訳した2次資料で、研究者には引用されない本だ。つまり安倍首相の言葉を否定して「軍の強制」が存在したとする根拠はたった二つで、どちらも取るに足りないのである。

要するに報告書を執筆したスタッフのうち、だれも日本語の文献を読まない(読めない)で、都合のいい2次情報だけをつなぎ合わせて「戦争を反省しない日本人」というステレオタイプを反復しているのだ。こういう偏狭な「自国語中心主義」が、事実の客観的な検証を阻んでいる。この報告書は、最初から日本を非難する121決議案の参考資料として書かれたのだから仕方ないといえばそれまでだが、アメリカの官僚の知的水準が日本よりはるかに低いことを示している。

さらに悪いことに日本にも、この田中利幸氏のように、欧米のステレオタイプに迎合して英文で「業績」を出す人々がいる。彼らは「ナショナリズムが燃えさかる日本」を嘆いてみせることで欧米人の共感を得て、「準白人」のクラブに入れてもらうわけだ。彼らにとって大事なのは「日本が悪い」という結論だけなので、強制連行があったかどうかという事実の検証は「枝葉の問題」だ。

しかし少し前進したのは、こういう議会文書が1週間後にはウェブに出て、それについてのいい加減な新聞記事がブログで批判されることだ。当ブログの4月バカにも累計10万近いアクセスがあり、50以上のブログからリンクが張られ、J-CASTニュースや新聞にも出たので、朝日新聞の社長も読んだだろう。もちろん彼らが謝罪するとは期待できないが、でたらめな記事はチェックされるだろう。無知な人々にとって必要なのは、まず自分の無知を自覚することである。それぐらいの「解毒作用」は、ネットにあるかもしれない。