著者は、周波数オークションの設計やニュージーランドの規制改革の顧問もつとめた、アメリカの指導的な経済学者だ。本書の内容は、ひとことでいうと「制度設計入門」である。設計というと「計画経済」を連想する人もいるかもしれないが、制度設計とは、人々が自律的に行動した結果、望ましい状態になるようなルールの設計である。特に重要なのは、市場メカニズムをうまく機能させるルールだ。

「格差社会」を是正するには政府の介入が必要だ、といった議論は、政府が求めた通りの結果が市場で実現すると想定しているが、実際には人々は利己的に行動するので、政府が予想した通りにはならない。たとえば電波を割り当てるとき、政府が「電波をもっとも有効に利用する企業に割り当てる」と告知すれば、すべての企業が「当社がもっとも有効に利用する」と申告するだろう。書類審査しても、今回のアイピーモバイルの事件のように、嘘だと判明することもある。情報の非対称性がある限り、「電波社会主義」で最適な配分を行なうことはできないのだ。

周波数オークションは、政府が歳入を増やすためではなく、電波をもっとも有効に使う企業を選ぶためのメカニズムである。書類審査なら嘘をつくことができるが、オークションで入札するときには、本当にもうかると思う額以下でしか応札しないから、電波をもっとも有効に使う企業が最高の価格を提示し、落札できる。つまりオークションは、本当のことを言わせるメカニズムなのである。

日本の行政には、このように戦略的にルール設定を行なうという発想がなく、「1段階論理の正義」で市場に介入する傾向が強い。「市場原理主義」に反対する人々は、市場の反対物は直接規制だと思い込んでいるが、経済学は市場をコントロールする技術を開発してきたのである。本書は、そういう制度設計の考え方をやさしく説いている。