ホリエモンの有罪判決は意外でもないし、多くのコメントが出ているようなので、今さら付け加えることはないが、事件についてのコメントを見て気になったのは、「エンロンやワールドコムでは20年以上のすごい懲役刑判決が出てるんだから、2年半ぐらいでは甘い」という「グローバルスタンダード」を振り回す向きが多いことだ。

これは逆で、こういう厳罰はアメリカだけの特殊な現象である。欧州では、ベアリング証券をつぶしたニック・リーソンでも4年で出所した。しかも最近どんどん重くなっており、Economist誌によれば、20年前ならエンロンの元CEOスキリングの刑は7年ぐらいだっただろうという。この原因は、80年代にドレクセル事件など超大型の金融犯罪が相次いだので、刑罰が引き上げられたためだ。これは2000年代初頭にエンロンなどの大型犯罪が続いたあとSOX法ができたのと同じで、政治家の人気取りのために企業犯罪の刑が殺人罪より重くなってしまったのだ。

こうしたエージェンシーコストの犯罪化は、企業統治の手段として合理的とはいいがたい。Tiroleも、刑事罰はエージェンシー問題の対策としてほとんど効果がないとしている。公開企業でプリンシパル(株主)とエージェント(経営者)の利害が相反するのは当たり前であって、その利害を完全に一致させることは可能でもないし望ましくもない。

そもそも粉飾決算のような民事事件に刑事罰が必要なのか、という疑問もある。たとえば中世のアイスランドでは、すべての犯罪が民事訴訟で処罰されたが、犯罪の発生率は低かった、とD.フリードマンは指摘している。こういう「私的警察」は、窃盗などの犯人が特定しにくい犯罪では効率的とはいえないが、経済犯罪のように当事者がはっきりしている場合には、株主訴訟などで重い罰金を課せば、抑止効果は十分期待できる。

もっと実質的な問題は、この種の事件では、ホリエモンのような最高経営者は――形式的な責任はまぬがれないとしても――犯罪の内容を知らないことが多いので、厳罰にしても抑止効果は小さいということだ。しかし捜査当局は、財務責任者よりも社長のクビを取りたいので、CFOと取引して協力させ、社長を厳罰にすることが多い。エンロン事件の場合も、3000もの膨大なSPEをつくって「飛ばし」をやったのはCFOのファストウなのに、彼の判決は懲役6年だった。ライブドアでも、宮内元副社長の求刑は2年半で、執行猶予になる可能性が高い。

事情を知らない社長をスケープゴートにするために、実質的な「犯人」と取引して刑を減じるのは、法の公正という観点から問題があるばかりでなく、リスク態度の歪みをもたらす。社長は、複雑な金融スキームのからむプロジェクトをよくわからないまま許可すると訴追されることを恐れて、自分の理解できないプロジェクトは許可しなくなるだろう。

また今回、多くの人が指摘しているように、ライブドアよりはるかに悪質で巨額の日興コーディアルが刑事罰どころか上場廃止もまぬがれたのは、既得権をもつアンシャンレジームが「身内」には甘いことを示している。こういうことが続くようだと、ただでさえ少ないアンシャンレジームへの挑戦者が、ますます少なくなるのではないか。