専門とは関係のない慰安婦問題に首を突っ込むのは気が進まなかったが、膨大なコメント(しかも驚いたことにノイズがほとんどない)をいただいて感じたのは、「慰安婦問題」なんて最初からなくて、これは無から有を作り出した朝日新聞問題なのだということだ。これは私の専門(メディア)とも関係があるので、簡単に事実経過を書いておく。

前にも書いたように、私も朝日と同時に強制連行問題を取材していたから、朝日が吉田証言を派手に取り上げて1面トップでキャンペーンを張ったときは、「やられた」という感じだった(*)。しかしよく調べてみると、吉田の本は1983年に出ていて、当時はだれも相手にしなかった。しかも、それを追跡取材した韓国の済州新聞の記者が、そんな事実はなかったという記事を、すでに1989年に書いていた。しかし朝日が騒ぎ始めた1991年が「慰安婦元年」になったのである。

金学順が最初に慰安婦として名乗り出たとき、それは強制連行とは関係なく、戦後補償の問題だった。軍のために働いたのに、賃金(軍票)が紙くずになってしまったので、それを賠償しろという訴訟だったのだ。国家賠償訴訟でも「身売りされて慰安婦になった」と明記されている。ところが、この提訴を朝日が女子挺身隊として強制連行された慰安婦の問題として取り上げたのが脱線の始まりだった。女子挺身隊というのは工場などに動員された女性のことで、慰安婦とは関係ない。

もう一つの問題は、吉見義明氏の発見した通達だ。これを1992年の1月、宮沢訪韓の直前に朝日は1面トップで「政府の関与」の証拠として報じ、女子挺身隊にも戦後補償せよというキャンペーンを張った。おかげで宮沢首相は、韓国で8回も謝罪しなければならなかった。これが彼のトラウマになって、河野談話を生み出したのである。この通達はもちろん女子挺身隊とは関係なく、軍が民間業者を取り締まる文書にすぎない。

この虚報の原因も吉田清治にある。彼が「慰安婦は女子挺身隊だった」と証言したからだ。要するに、吉田のインチキな「告白」にもとづいて朝日が筋書きをつくり、それに乗って福島瑞穂氏などの社会主義者が慰安婦を政治的に利用し、韓国政府をけしかけて騒ぎを拡大し、それに狼狽した宮沢政権がわけもわからず謝罪したのだ。これは「あるある」をはるかに上回るスケールの、戦後最大級の歴史の捏造である。

しかも朝日のでっち上げを河野談話が追認したため、これが世界のメディアの「常識」になってしまい、NYTもワシントンポストも「慰安婦=強制連行=20万人」というのが「歴史家の定説だ」と書いている。韓国では、吉田証言や慰安婦=女子挺身隊という話が今でも教科書に載っている。朝日の捏造した歴史が、アジア諸国との関係を悪化させる原因になっているのだ。

私の友人には、朝日の記者もたくさんいるが、彼らは今の50代以上の幹部についてはあきらめている。「あの人たちの世代の生き甲斐は、反戦・平和の正義を世に広めることだったから」という。この意味で朝日は、社会主義をいまだに信じる冷戦の亡霊なのである。ただ、今のデスク級はもう世代交代しているので、現場はこの種のキャンペーンには冷淡だ。今回の慰安婦騒ぎでも、不気味なぐらい朝日は沈黙を守っている。そりゃそうだろう。口を開けば、吉田証言や女子挺身隊などの捏造問題を検証せざるをえないからだ。

だから慰安婦問題を徹底的に解明し、宮沢氏や河野氏を国会に呼んで経緯を明らかにするとともに、騒ぎを作り出した朝日新聞の責任も追及すべきだ。それが過去の戦争や冷戦の亡霊と決別し、日本がアジアとの成熟した友好関係を築く第一歩である。海外に事実を伝えたい人は、英文ブログに投稿してください。

(*)実は、NHKも朝日の記事の後追いで、吉田の話をドキュメンタリーにしようとしたが、裏が取れなかったのでやめた。テレビは新聞と違って、ないものは描けないからだ。

追記:TarO氏のコメントによれば、朝日新聞は吉田証言が嘘であることを認める記事を1997年に出したそうだ。挺身隊については「韓国側の主張として紹介しただけ」、「軍関与の資料」の件については「強制連行とは書いていない」とのこと。要するに、この記事の指摘をすべて認めているわけだ。